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29.ふけさん



「さてと、それじゃ行きますか」

 夜もふけたころ、私はアイドルプロダクション『わっしょい』のオフィスに潜入するために、隣のビルの屋上にいた。


 
 私は『暗黒豆腐少女』の曲をどうしようか考えた。自分達で曲を作ることは不可能であり、それならば、誰かに作ってもらうしかない。しかし、金がない。ならば……盗むしかない。

 アイドルプロダクションには、おそらくボツになった楽曲が複数あるはずだという考えのもと、私はその楽曲を盗むことを決意した。……というか、またいつものように思ってしまったのだ。

『ルパン三世のようにビルに潜入して、楽曲を盗むことができたら、楽しそうだ』と。

 そして、一度そう思ってしまうと実行せずにはいられないのが、私という人間なのだ。



 そう言う理由で今、私は全身黒タイツを身にまとい、隣のビルの屋上からアイドルプロダクション館内へ侵入するためにロープを手に取っている。この日のために、ルパン三世DVDボックスを購入して、勉強してきたのだ。絶対にうまくいくはずだ。

「ふん! ふん! はっ!」

 私はルパン三世顔負けのロープさばきでアイドルプロダクション『わっしょい』の屋上の柵目掛けて、ロープを放り投げた。

「よし!」

 私の投げたロープの先の”わっか”が、見事にアイドルプロダクションの屋上の柵に引っかかった。

「ん! んっしょ! ……よし、これだけ固く結べば大丈夫だろう」

 私は今いるビルの屋上の柵にもロープの端をくくりつけ、ビルとビルの間に、一本のロープをまるで橋の様にピンと張ることに成功した。

「うんしょ、うんしょ! よし! これなら大丈夫」

 私はロープが外れないのを確認してから、慎重にロープに捕まった。そして、宙ぶらりんになりながら、今いるビルとアイドルプロダクションとの間を渡り始めた。

「びゅーぅうう!!」

 冷たい夜風が吹き付ける。地面まで垂直距離で30メートルはあるだろうか? 落ちたらただでは済まないぞ……。そう思うと、急に体が震えだした。そのとき、

「うわぁあああ!!」

 私は、思わずロープから手を離し、落下してしまった。

「ピピピピピピ! ピピピピピピ!」

 落下中、私はけたたましい警報音がプロダクション館内で鳴り響くのを聞いた。