カシューナッツはお好きでしょうか?
14.ハルカ
社長さんのキスシーンを見た私は、無我夢中で街中を走った。
「もげぇ!」
そして、こけた。
「イテテテ……」
膝を大きくすりむいた。真紅の血が滲んでいる。痛い……
「うぅううう……」
痛みを感じた瞬間、瞳から滝のように涙が溢れてきた。
私、なにやってんだろう……
「大丈夫ですか?」
ふと、声のする方を見上げると、目の前には警察官がいた。私は泣き顔を見られたくなかったので、必死に痛みと涙を堪え、笑顔で答えた。
「大丈夫です。おかまいなく」
私は直ぐに身を翻し、警察官から離れようとした。
「ちょ、ちょっとまって! き、君はあの社長と会いたいんだろ?」
私の足が止まった。
「俺、あ、あの社長と知り合いなんだよ……だから……そ、そうだ! これ、これ俺の連絡先。もし、社長に会いたいんだったら連絡して!」
そう言うと、警察官は挙動不審な動きで私に紙切れを渡して去って行った。社長さんに……もう一度、会える? 私の胸は少し、ときめいた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ