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116.ふけさん




「舞茸さん! はやく松原を追いかけましょう!」

 カエデさんからの突然の電話に力をもらった私は、直ぐに立ち上がった。いつだってそうだ。カエデさんは私に不思議な力をくれる。

「チュ、チュウ〜」

「いつまでネズミやってんだよ! このアホンダラ! いくぞ!!」

 私は痛む体に鞭打ち、舞茸さんを連れて直ぐに松原を追いかけた。



「くそ、もうあんな所まで……」

 外に出ると、500メートルくらい先のところに松原が見えた。何て逃げ足の速いヤツなんだ。くそ、このままでは逃げ切られてしまう……。私があきらめかけたその時、風が吹き抜けた。

「私達に任せて! 行くわよ!」

 競技用の自転車に乗った3人組の女性が、松原をものすごいスピードで追いかけて行った。

「あれは……『立ち漕ぎシスターズ』!? 何故ここに?」

 私が状況をうまく飲み込めずにいると、舞茸さんが口を開いた。

「実は、こんなこともあろうかと、『立ち漕ぎシスターズ』を呼んでいたんです。彼女たちは引退してからもう3年近く経っていますが、あの強靭な足腰は健在です。さぁ、私達も追いかけましょう!」

 そう言うと、舞茸さんは『立ち漕ぎシスターズ』の強大な臀部を追いかけて走り出した。

「ちょ、舞茸さん。待ってくださいよ!」

 私も痛みを我慢して、走りながら松原の方を見た。すると、もうすでに『立ち漕ぎシスターズ』は松原に追いついていた。なんてすごい太ももなんだ! 私は競輪選手顔負けの、まるたのように太いあの足に、思わず惹かれてしまった。



「積年の恨み、晴らさせてもらうわよ!!」

「うぉ! な、なんだお前たちは! うわぁ!」

 松原に追いついた『立ち漕ぎシスターズ』は、自転車の前輪で体当たりをした。そして、その衝撃に耐えきれなかった松原は地面にひれ伏した。

「ぐおぉ、や、やめろ!」

 さらに、周りを囲まれた松原は『立ち漕ぎシスターズ』にボコボコリンチされた。

「く、くそ……」

 ついに追い詰められた松原は頭を抱えながら、逃げ場を探して必死に辺りをキョロキョロと見回した。

「!!」

 何かを発見した様子の松原は、一瞬の隙を突いてリンチから脱出した。

「ち、近寄るな! これ以上近寄ると、このガキの命はないぞ!!」

 そして、あろうことか松原は、たまたま近くを歩いていた小学生くらいの小さな女の子を人質にとったのだ。あの野郎、どこまで極悪非道なんだ!!
 
「く、卑怯よ松原!」
「そうよそうよ!」
「その娘を離しなさい!」

 さすがに『立ち漕ぎシスターズ』も手が出せず、動揺していた。

「さ、さぁ! そこをどけ! もう、俺についてくるな! ついてきたらこのガキ殺すぞ!」

 松原はそう言うと、女の子を引きずりながら、逃げ出そうとした。そのとき、

「誰が……“ガキ”だって?」

 どこからか、どす黒い声が聞こえた。

「え?」

 そして、そのどす黒い声に驚く間もなく、松原は一本背負いされて、地面に転がった。

「私は今年で30だよ!! てめぇ、松原この野郎!! おめぇのせいで私はアイドルをやめさせられた!! ゆるさねぇからな!!!!」

 なんと、小学生だと思っていた女の子は、あの伝説の不思議ちゃんアイドル『水玉ポニーイチゴ姫』だったのだ!

「ひぃひぃいいい!」

 今度こそ、松原は終わりだ。もう、どこにも逃げ場はない。


「カメラ、返してもらうぞ。お前はもう、終わりだよ」

 そして、私はついに松原からカメラを奪い返し、勝利宣言をした