カシューナッツはお好きでしょうか?
115.カエデ
「私もう、松原のセクハラに耐えられません!」
ハルカは泣いていた。体を震わせて、心から泣いていて、すごく幼く見えた。
「あんた……ずっと一人で、耐えていたんだね」
私はハルカをやさしく抱きしめた。
「わたし、うぅ……アイドルをやめたくなかったから…………頑張りたかったから……アイドルをやめて、社長さんとの接点がなくなってしまうのが怖かったから……私一人が我慢すれば……それでいい、それがいいって思っていたから……うぅ」
松原という男は、ほんとうに最低な男だった。私も、何度かセクハラまがいのことをされていたのだが、まさかハルカにもしていたとは……許せない。
「大丈夫、あんたはもう我慢しなくていい! アイドルもやめなくていいのよ! 良く相談してくれたわ。あとは私に任せなさい」
私は気がつくと、携帯電話を握りしめていた。そして、ふけさんに電話していた。今までずっと、ふけさんに連絡できなかった。それは、ふけさんが私を裏切ったことを恨んでいたからじゃない。ふけさんと向き合うのが、怖かったからだ。でも、今はそんなことどうでもよかった。ハルカを助けるためには、私一人ではどうにもならない。誰かの助けが必要だ。そして、その“誰か”を思い浮かべたとき、一番に思い浮かんだのは他でもない、ふけさんだった。理由はないけれど、“ふけさんならどうにかしてくれる“と、不思議だけれど思えてしまう。
「もしもし! ふけさん?」
「あれ? カエデさんどうしたの?」
電話に出たふけさんの声が、あまりに普通で、すごく懐かしくて、私は思わず落ち着いてしまった。
「ふけさん、久しぶり。実は……」
私がハルカのことを話そうとしたら、ふけさんはあっけらかんとした感じでこう言った。
「大丈夫。君は何も心配する必要はない。君はただ、自分が輝くことだけを考えればいい。君を邪魔するものはきっと、君の傍からいなくなるから。大丈夫だよ」
「え? ふけさん? ふけさん、ちょっと!」
そして、私の話を一切聞かずに電話を切った。
「ちょっと! どういうことよ、ふけさん! ……信じていいの? ……信じるよ」
このとき、私は気付いてしまった。ふけさんの存在が、私にとって、とても大きかったということに。そして、今もきっと、私にとってふけさんは…………
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ