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ヒトバ、シラ

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 ――パソコンが音を立てる。カリカリとHDDの読み込みヘッドがなり、そして冷却ファンが轟音を立てていた。私はその音によって、目を覚ました。
 ありゃぁ、こりゃアタリだったか。頭を抱えながら、ベッドから起き上がる。見ると、インターネットブラウザが勝手に立ち上がっており、そのブラウザは真っ黒なページが表示されていた。
 パソコンは絶賛熱暴走中で、CPUの温度も九十度間近だった。廃棄を覚悟しながらパソコンの前に座ると、ガクッとCPUの温度が落ちてゆく。
 むぅ、なんだこりゃ。訳が分からないぞ。そう思いながら、管理ソフトを起動して、CPUやメモリの使用割合、ネットの接続状況、異常なシステムの動作などをチェックする。だけれど、やっぱりあの時のようになんの異常もなかった。ブラウザすら、メモリやCPUを大量に食い散らかしているわけでなし、平常通りの使用割合だった。
 まあ、パソコンが勝手に起動しているだけで異常だ。ウィルスチェックソフトを何個か通してみるものの、その夜は何一つ異常は発見できなかった。
 明くる日の夕方、バイトを終えた私はいつものようにパソコンの前に座る。
 パソコンの周りには座ったままでいられるように色んなものが置いてある。小型の冷蔵庫から、暖房器具まで実に様々だ。電気ケトルもその一つで、冷蔵庫の中の水を電気ケトルに注いで温める。その間にコーヒーカップにインスタントコーヒー用意しながら、パソコンを立ち上げる。
 電気ケトルからコーヒーカップにお湯を注いでいると、リンク踏み用のパソコンがまた勝手に立ち上がっているのを目にする。今回はCPUの暴走はなかったが、微妙に気持ちが悪い。こりゃ完全にフォーマットだな、とパソコンにCD-Rをつっこもうとすると、今度は勝手にインターネットブラウザが立ち上がった。
「気持ち悪いなぁ。なんだこれ」
 ブラウザは、ただ真っ黒なページを表示している。
 URLを見ると、どこか見覚えのあるURLだった。多分、昨夜踏んだリンクと同じものなのだろう。
 私はブラウザを閉じる。すると、また勝手にブラウザが立ち上がる。
 こりゃ本格的にダメかも知れんね。そう思って、私はCDドライブにフォーマット用のCD-Rをつっこむ。いや、つっこもうとした。
 すると、ブラウザに変化があった。
 それは、外周から少しずつ茶色が混ざってくる。
「――眼っ!」
 眼だった。人の眼。少しずつそれは動き、やがてそれは人の眼を映し出した。真っ黒なページだと思っていたが、これは人の瞳孔だった。
 濁った白目に、真っ白な肌。映画で見たことがあるぞ。
「何だ、ドッキリ系のフラッシュか……それにしても手が込んでいる――」
 そう思ってシステムを確認する。だが、フラッシュ再生用のプログラムが起動してはいない。
 何だ? HTML4か? とにかく、思い当たる節を探ってみる。
 だが、何も見つからない。おかしい、何かがおかしいっ!
 動作を探っている間も、ソレは少しずつ大きくなってゆく。眼、鼻、口と、やがてソレは人の顔を形作っていく。
 ヤバイヤバイヤバイっ! 何かがヤバイ! 既に退化していたであろう警戒心が警報を鳴らす。そうだ、電源っ! ダメだ、これはノートパソコン。電源コードを引っこ抜いただけじゃ内蔵のバッテリーで動き続ける。
 ――いや、これはノートパソコンだ。だったら、閉じてしまえばいいんだ。
 私はノートパソコンをそのまま閉じてしまう。
 どっと疲れが押し寄せてくる。冷静になってみると、なんて馬鹿馬鹿しい行動だ。パソコンの異常動作にビビるなんて、ヤキが回ったものだ。
 自嘲しながら、コーヒーを口にした。
 すると、真っ黒なコーヒーに、ソレは反射して写っていた。
 白い肌に、長い首と手足。まるで蜘蛛の様に天井に張り付く女。それは背中をこちらを向けているのに、首はこちらを向いていた。
「ヒトバ、シラ……」
 それは、乾いた声で呟いた。

『次のニュースです――』
 ネット上である実験が行われた。
 催眠術。サブリミナル広告というものを聞いたことはないだろうか。CMなどにコンマ秒ほどの短い時間、ある画像を差し込む。それを何回も目にすることにより、CM製作者の意図する行動を行ってしまう一種の催眠術だ。
 その会社は、あるサイトのURLを掲示板に書き込んだ。そのURLにアクセスしたのは十人。そして、その十人にはある命令が掛けられた。午前三時に先ほど踏んだURLに再接続するように、という催眠術だった。その催眠術通り、十人中七人はそのページにアクセスしたという。
 だが、問題が起こった。そのうち一人が心臓発作で死亡したのだ。
 このサブリミナルページと、その心臓発作に因果関係は全くなかった。本来なら何も起こらずに終える筈だったが、その死人が最後にアクセスしたページのキャッシュデータがパソコンに残っていたことから、この事件が発覚したのだ。
 死人が何故死んだのかは、分からない。サブリミナルページの副作用だったのか、それとも別の要因か。
 ――ところで、催眠術に掛かった被験者のうち、残りの四人がこう証言したという。
「ブラウザから視線を感じた」
 後で調べたところ、そのページのソースには僅かにだがバグが発生していたという。そのバグはページ自体にはなんの不具合も起こさなかったので放置されていたが、それが何らかの形で影響したのではないかと分析する者もいる。
 ただ、そこで一体何が起こったのか知る者はいない。そこにあったのは、冷めたコーヒーだけだったのだから――。
作品名:ヒトバ、シラ 作家名:最中の中