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ヒトバ、シラ

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ネットの世界というのは、昔に比べて格段に広くなったように感じる。SNSの台頭などで、多くの人間がネットというツールを扱うようになった。
 人間の数だけ世界がある、というのは誰の言葉だろうか。人間にはそれぞれの価値観、そして主義主張が存在する。それを世界というなら、なるほど、世界は人の数だけ存在するということだ。
 そして、それはそのままネットにも反映される。掲示板の書き込みから、小説、イラスト、エッセイなどの『表現』。それらがネットにアップされるだけ、ネットは広がっていく。
 いわば、ネットは個人の世界同士を繋ぐ糸なのだ。それらの糸が他人の世界と繋がっていくことで、ネットはその形を成してゆく。
 そして、ネットは主に形のない物を行き来させるために扱われる。それが電子情報というものだ。
 そしてその電子情報は、たまに非科学的なものも行き来させてしまう。
 ――善意と悪意、そして幽霊と呼ばれるモノもまた、ソレである。

 ある掲示板に立てられたスレッド、『催眠シチュ好きな奴ちょっとこい』を横目に、私はカーソルをそのURLに当てる。
 私は人柱である。人柱とは、建物の強度を上げるために人を建物の基礎などに埋めてしまう儀式的行為を指す。転じて、パソコン製品などの技術向上速度の速い分野の新製品を進んで購入して動作を確認する者を指すこともある。パソコン製品の多くは高価であり、更に初期動作が芳しくないものも多く存在する。そのままサポートすらされずに忘れ去られるものもあり、精通者は最新製品を購入することは避ける傾向にある。
 そんな中で、人柱と呼ばれる彼らはそれら最新製品を購入して動作を掲示板に書き込むことを生きがいとしている節がある。有料テスターとも揶揄され、人柱として崇め奉られる。
 私はその中でも、掲示板のリンクを踏むというタイプの人柱である。掲示板のリンクというものは安易に踏むものではない。そのリンク先にブラクラやウィルス、グロ画像が仕込まれてないとも限らないからだ。
 ブラクラとはブラウザクラッシャーの略語であり、大量のデータを送り込むことでコンピュータの処理速度を低下させ、酷い時にはそのまま動作が停まってしまうこともある。ウィルスは、言わずと知れたコンピュータウィルスのことだ。そして、精神的ブラクラ、グロ画像等……。掲示板はその匿名性からこういったものを仕込むには絶好の場所なのだ。事実、悪戯目的に貼られたウィルスにリンクを踏んだ者が感染してパソコンを壊してしまったことがままある。
 私はそれらリンクを踏んで中身を確認する地雷処理人……人柱なのだ。
 何でそんなことをしているかというと、まあ、それが好きだからとしか言いようがない。趣味に動機は必要ないのだから、その行為に理由を求めるのは無粋というものだ
 私は何台か並んでいるパソコンのうち、ネットの回線以外には繋がっていないノートパソコンから、そのURLにアクセスする。
 鬼が出るか蛇が出るか。エロ画像、動画だったらそれはそれでつまらないが、当たりをヒくとこのパソコンはフォーマットが確定だろう。
「なんだこりゃ?」
 ――出て来たのは、真っ黒なページだった。私は急いでパソコンの動作を確認する。しかし、異常な動作を行ったシステムは何一つなかった。
 一応、そのパソコンの監視を続けながら、掲示板に書き込む。
『ただ真っ黒なページが貼り付けられてるだけだぞ。ウィルスかも知れんから触らない方が吉だ』
 その後、そのリンクを踏んだ他の人柱の報告では、同じように真っ黒なサイトを踏んだ者もいれば、HTTP404、いわゆるリンク切れという報告が成された。
 私はそのスレッドが落ちるまでに何個かリンクを踏んで動作確認をした後に、パソコンをスリープさせた。

作品名:ヒトバ、シラ 作家名:最中の中