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てっしゅう
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「初体験・小枝子編」 第二話

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「小枝子編」第二話

「雄介!何時に帰ってくるの?」
「解らないよ・・・ちょっと遠くまで行くから、電話するから心配は要らないよ」
「気をつけて運転しなさいね。まだ初心者なんだから」
みどりの若葉マークが前後に取り付けてあった。
「解ってるよ。じゃあ、行って来るから」
車は一号線から淀川にかかる豊里大橋を渡って千里中央から箕面市(みのおし)に入った。何度か道を尋ねて小枝子の家の傍まで来た。
住所に書かれてあった番地を確認して山本と書かれた表札を見つけた。呼び鈴を押して名前を名乗った。

「井上です。突然お邪魔しました。小枝子さんいらっしゃいますか?」玄関から顔を出したのは母親の典子だった。
「山本ですが・・・どちらの井上さんでらっしゃいますか?」
「はい、ギターを買いました井上です」
「そうでしたか、お客様でしたか。お待ち下さいね」中に入ってすぐに小枝子は出てきた。
「どうしたの?びっくりしたのよ・・・車で来たの?」
「うん、買ったんだ。知らせなかったけど、つい最近にね。心配だから寄ってみたんです。いけませんでしたか?」
「そんな事ないよ。嬉しい・・・中に入って、車は前に置いてて、大丈夫だから」
「はい、そうします」

小枝子は化粧をしていなかった。少しやつれて雄介には見えた。

「恥ずかしいわ、言ってくれれば化粧ぐらいしたのに・・・それに普段着だし」
「全然構いませんよ」
「あなたは男性だからそういえるのよ。母だって化粧はしているんだから」
「病気と聞いていましたから平気です。それより・・・これ最後の一万円です。本当に助かりました。一生懸命練習していますよ。もうすぐ何とか禁じられた遊びが前半の部分だけ弾けそうなんです」
「わざわざ届けてくれたのね・・・こちらこそありがとうございました。そうもう弾けるようになっていたのね・・・若いって早いのね」
「そうですか?何でも早ければいいって言うもんじゃないですけどね、ハハハ・・・すみません言い過ぎました」
「可笑しい人、雄介さん・・・て。元気がもらえそうね」
「そうですよ、元気出してください。おれ・・・いつでも傍に居ますから」
「うん、ありがとう・・・」
母親の典子がお茶を入れて持ってきた。

「井上さん、粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます。お気遣いなさらないで下さい。すぐに帰りますから」
「そうですか、娘ともう少し話をしてやって頂けませんか?」
「はい・・・構いませんが、身体に障りませんか?」
「多分・・・大丈夫だと思います。病気じゃないですから」
「そうですか、わかりました」
小枝子は母親をチラッと見て何か言いたそうにしたが自分から話すことにした。

「雄介さん、びっくりしないで聞いてね。あなたにだけ話すから」
「はい、大丈夫です」
「私・・・ね、一昨日の朝薬飲んだの・・・睡眠薬、それもたくさん」
「えっ!何故ですか?」
「うん、前の日の夜にね別れた夫と会っていたの。向こうから別れを言い出したのに縁りを戻したいって言ったの。断ったら、酷いことを言われて無理やり車の中だったから・・・触られて・・・こんな事あなたに言っている自分が変だけど聞いて欲しかったから」
「最低な奴ですね・・・警察に言えばよかったのに」
「そんな事言っても取り扱ってはくれないのよ。車に乗った方が悪いって言われるの」
「それは無いでしょ、知っている人それも前のご主人だったんだし」
「そうだけど・・・油断したって思われるのよ」
「それはそうですが・・・警察も酷いですよ」
「そんなものよ、覚えておいた方が賢いわよ。それでね、帰ってきてずっと考えて悔しいやら悲しいやらで眠れなかったの。明け方にボーっとしながら母が飲んでいた睡眠剤を勝手に飲んだの。訳がわからなくてたくさん・・・そうしたら・・・」
「良かったですよ。死ぬ人だって居るんですから、もう絶対にしないって約束してください!」

雄介は心の底からそう思った。

「下剤のまされて吐き出して病院から家に戻ってきて身も心も腑抜けのようになってしまったの・・・夜あなたから電話を頂いて気力を振り絞って話したけど・・・泣けちゃってまともに受け答えが出来なくなってしまった。
本当にダメな女なの・・・店もほったらかしにしてこんな羽目になるだなんて、母に臨時休業の届けをしてもらって何とかなっているけど、もうまともに店に出られそうに無いのよ。雄介さんのこと思い出したけど・・・店止めてしばらくここで休養しようって考えているの」
「小枝子さんの辛い気持ちは解りますが、店に来てくれるお客さんのことも考えてあげてください。おれダイエー辞めて手伝いますから一緒にやりましょう。元気が元のようになるまでタダでいいです、雇ってくれませんか?」
「雄介さん・・・優しいのね、私みたいなものに」
「俺になんて言いました?悲しいときも、辛い時も、淋しい時も、嬉しい時も、音楽がいつも助けてくれたそして励ましてくれたって言ってくれたじゃないですか!感動したんです。忘れちゃダメですよ」
「うん、そうだったね・・・あなたは若いのにたいした人ね。別れた夫とは大違い・・・同じ人間って思えない」
「人にはそれぞれ得意不得意って言うのがあります。小枝子さんとその人とは合わなかったのでしょうね。そう考えましょう。悪口は相手も同じように言っていますから言わない方がいいです」
「あなたと若い時に巡り逢っていれば、こんな思いをせずに済んだかも知れない・・・ゴメンね勝手なこと言って」
「いいえ、いいですよ。今は元気を出して仕事を続けることが先決です。明日にでも学校の帰りに事務所に辞表出してきます」
「雄介さん、いいの。元気になれそうだから。明日から店開けて何とか頑張る。勇気をありがとう・・・ねえ、今度今日のお礼させて?」
「そうですか、良かったです。遊びに行きますから毎日。礼なんていりません。ギターの分割だけで十分です」
「違うの・・・お礼はしたいの」
「はい・・・いつでもいいです。教えてください」
「うんそうする。今日は本当にありがとう。安全運転で帰ってね」
「そうします。じゃあ、明日・・・」

雄介は帰りの車の中で小枝子が言った「お礼」の意味を考えていた。それはひょっとして香奈枝の時のように、千代子の時のように割り切った女の愛情表現なのかとも受け取れた。

約束どおりに翌日店は開店していた。バイトに入る前に立ち寄って覗くと明るい声で客と応対をしている小枝子の姿があった。
「雄介さん!いらっしゃい」
「こんばんわ。良かった約束守ってくれて」
「そうよ、あなたのお陰ね・・・やっぱり仕事をしている時が一番気がまぎれるわ。今から上ね?」
「はい。終了までです」
「頑張って・・・そうだ、終わったら店に前に来て」
「今日ですか?」
「今日はいけないの?」
「そういう意味じゃないですが・・・わかりました」
「ご飯に行きましょう」
「はい」

その日バイトが終わってから雄介は小枝子と一緒に近くの喫茶店で食事をして少し話をした。帰り際に電車の中で雄介の手をそっと取って、
「今度ゆっくり逢いたい・・・こんなオバさんじゃいや?」
「小枝子さん・・・水曜日ですか?」