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調剤薬局ストーリー

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小枝子は驚いたが、彼女が助かる方法はそれしか無い。肝臓の悪い部分は切り取って、足りない部分を俺の肝臓で補う。そうすれば彼女はきっと助かる。
小枝子も俺も血液型はA型、臓器はきっと合うはずだ。大好きな小枝子に俺の肝臓を少しやろう。
「・・・秀ちゃん、私に肝臓をくれるの?!」
「ああ、やるよ。そのかわり、約束してくれ」
「何?」
「絶対良くなって、また俺とバイクで湾岸の夜景を見に行くって」
俺は白くて弱々しい彼女の顔を見た。
彼女は優しい声で答えた。
「・・・嫌。・・・夜景でなくて晴れた海がいい・・」
そう言って、小枝子は可愛い笑顔を見せた。
俺も笑顔で答える。
「いいぜ、海でもどこでも連れてってやる!」
彼女の頭を強めに撫でると、俺は病室を出て先程の診察室へと向かった。

生体肝移植は大手術だ。
臓器移植は様々な規定や厳密な手続きがあるが、医療的に妥当で、よりよく生きるための正当な選択であれば、提供者と患者の意志は最大限尊重される。
費用も結構かかるが、それは親戚である社長が工面してくれた。
手術着に着替えた俺たちは、並んだ手術台にそれぞれ仰向けに寝ると、互いに見つめ合い、手を繋いだ。
麻酔のマスクを当てられ、俺はゆっくりと眠りについていく。
深く眠った。
そして、夢を見た。
真っ白な世界、その先に影が見えた。
哲也だ。
バイクで飛ばす哲也の後ろ姿が見えてきた。
俺は懸命に追いかけた。
「哲也ーーーっ!」
俺の声に振り返った哲也は、右手をハンドルから離してVサインをすると、更に加速して消えていった。
俺は走るのをやめ、ただ、ぼう然とその先を見ていた。
そして目が覚めた。
十時間に及ぶ手術は終わっていた。
真っ暗な病室の窓はカーテンが閉めてあった。
起き上がろうとしたが、上腹部に巨大な切り込みを入れた俺は動けなかった。
誰もいない。
室内の暗がりに目が慣れてくると、俺は辺りを見回した。
腕には点滴が刺さっている。
俺はそのまま動けずに、ただ、暗がりの中でいまの状況を知ろうとして、いつまでもいつまでも辺りをきょろきょろと見回していた。


※  
 

 エピローグ
         

炎天下の空の下、俺はバイクにまたがると何回か空ぶかししてエンジンの様子を窺った。
絶好調だ。
あれから一年。
俺と小枝子はすっかり回復していた。
手製の弁当と水筒を入れたリュックを背中に背負った小枝子が後にまたがる。
そして俺の耳元で彼女が言った。
「秀ちゃん、大好き!」
俺は振り向いて彼女に声をかける。
「俺もだ、いくぞ!」
「うん!」
ピンクのフルフェイスから目だけ覗かせる小枝子の可愛い笑顔を見た後、彼女の腕がしっかりと腹に巻き付いたことを確認した俺は、思いっきりアクセルを捻った。
俺と小枝子を乗せたバイクは車のひしめき合う首都高に入る。
ご機嫌な空の下、車をかわして吹き抜ける風が気持ちいい。
最高だぜ!
俺たちは、国道一号線(東海道)を抜けて一三五号線に入ると、南伊豆の尾ヶ崎ウイングを目指して一気に加速した。


                完

(C)kenji Yamamura 2012 writtien in Japan
作品名:調剤薬局ストーリー 作家名:山村憲司