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調剤薬局ストーリー

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「調剤薬局ストーリー」        山村憲司 著

     

哲也と一緒に夜中の峠をバイクで攻める。
ノーヘルの風圧は髪の毛をたなびかせ、その気持ちよさに右手のアクセルを何回も捻る。
最高だぜ!
ヘアピンを何度も交わし、山頂のドライブインに差し掛かると、突然サイレンが鳴った!
 白バイの赤い点滅灯が二つ追いかけて来た!
哲也のバイクは更に加速してカーブを攻める。
俺もそれに続こうとした瞬間、一台の白バイに回り込まれた!
「くそっ」
交わそうとしたが交わしきれない。バイクの性能は向こうの方が完全に上だ。強い口調でやかましく制された俺は、ついに観念してアクセルを緩めバイクを停めた。
もう一台の白バイは哲也を追って行った。
降りてきた白いヘルメットに職務質問(せっきょう)を受けている俺の右頬がほのかに明るくなった。
「えっ?!」っと思ってその方向を見ると、暗闇の木々を照らして、オレンジ色に立ち上る煙が見えた。
「まさか!」
俺は制止する警官を無視して、その方向へと走り出した。
バイクと違い、走っても走っても、なかなかその煙の所に辿り着かない。
それでも俺は全力で走った。
近づく明るさと、燃え盛る金属の残骸を遠くに見ながら、俺は喉の奥から叫んだ。
「哲也ーーーっっつ!!」

哲也に付添って病院についてきた俺は集中治療室の前で、静かに座っていた。
じっと廊下の四角い床のタイルを見つめて黙っている俺に、二人の警官もさすがに声を掛けられない様子だ。
ICU(集中治療室)のランプが消えた。
そして、開かれた扉から酸素マスクに点滴の哲也がベッドごと運ばれて出てきた。
近づこうとした俺は周りの者に制される。
「哲也は無事なのか!」
俺は入口に現れた全身緑色の手術着の奴に聞いた。
「かなりの火傷と両足の骨折だが、命には別状ない。二度と無茶をしないことだ」
俺はその言葉を聞いて安心すると、全身の力が抜けた。そして、その場に膝を付いて呟く様に言った。
「先生、ありがとう・・・」

しかし、そんな言葉も意味の無いものになった。
哲也は三日後に死んだ。
死因は薬の副作用らしい。
弱り切っている体に、合わない薬剤を投与された哲也は、その副作用に耐えきれず、呼吸困難でこの世を去った。その連絡を受けた俺は自宅謹慎を破って病院に駆け込み、涙の続く限りに泣いた。

退学は免れたが、停学で自宅謹慎中の俺はそれ以来、何もやる気がしないまま、ただヒマな時間を過ごしていた。
そんな俺の部屋に珍しくオヤジが入ってきた。
その神妙な表情に「コノヤロウ、俺に説教でもするつもりか?!」と身構えると、床に座ったオヤジは持ってきた黒い筒を開け、中から何かの賞状を出した。
俺が黙って見ていると、オヤジは真剣な目で俺を見上げて言った。
「秀一、これは父さんの大学の合格証書だ。大学に受かったんだが、家が貧しかったから父さんは進学を諦めて高校を卒業したらすぐに働いた。でも父さんは、本当は大学に行きたかったんだ。大学で勉強したかったんだよ」
以前、オフクロに聞いたことがある。
オヤジは高卒で就職したために大変苦労したらしい。
後から入ってきた若い大卒の上司に顎で使われたり、学歴の事で嫌味を言われたりしたこともしばしば。それでも歯を食いしばって努力した結果、同期でも出世組の部長にまで上り詰めたんだと言っていた。
それにしても、自分の大学のことを俺なんかに言ってどうするんだ?と言いかけた瞬間に、オヤジは俺に頭を下げてとんでもないことを言った!
「頼む、大学に行ってくれ!息子のお前に父さんの夢を叶えて欲しい・・・」
俺は目を丸くして反論した。
「おい、冗談だろ?!」
なんて無茶なことを言うオヤジだ。俺はここ半年、まともに勉強机に向かったことなんかねぇし、卒業したらバイクの修理工でもやろうと思って、そんな雑誌ばかり読んでいた。そんな勉強の出来ない俺に、あと一年もない高校生活の間に大学受験の勉強をして、大学に受かれって言うのか?!
絶対無理だろ、おまけに停学中だし。
俺はそんな突拍子の無い話をするオヤジの目を睨みつけた。
すると、いつもは目を伏せてどっかに行ってしまうのにきょうはそうじゃない。逆に見返してくる。
ここ数年、俺もオヤジも互いの目をこんなに凝視したことは無かったのかも知れない。
俺は低く唸ると、体を反転させて押入れを開け、暗くごちゃごちゃした中に上半身を突っ込みながら大声で叫んだ。
「一度だけだからな!一度だけ大学受験してやる。それでダメならあきらめろよ!その先は俺の好きにやらせてもらうからな!」
後ろでオヤジが礼を言っているようだったが、俺はどこかに閉まっておいた一年生の頃の教科書を探すのに忙しかった。
俺はオヤジの願いに乗ってみることにした。
やるとなったらとことんやるのが俺の信条だ。
それにしても、自分の学力は十分、分かっている。
高校一年生からやり直しだ!
大学なんて受かるかどうかわかんねぇ、とにかくやれるとこまでやってみる・・・
俺はそう決めた。

高校の卒業式も終わり、俺はひさしぶりに哲也の墓参りに来た。
花を換え、墓石に柄杓で水を掛ける。
すると、後ろで俺を呼ぶ声がした。
「秀ちゃん」
振り返ると、哲也の母さんが立っていた。
「おばさん・・・」
「お参りに来てくれたんだね。ありがとう」
何か言おうとして何も言えないでいる俺に気をつかってか、おばさんは優しく話しかけてきてくれた。
「秀ちゃん、大学に受かったんだってね。良かったわね、おめでとう」
「ありがとうございます。性に合わないんだけど、大学に行ってくれって、オヤジに泣きつかれたもんで・・・」
「そう・・・いいお父さんね。哲也もきっと、秀ちゃんの大学に受かったこと喜んでるわよ」
「・・・」
言葉の出ない俺の顔を覗き込むようにおばさんが言ったことに俺は驚いた。
「秀ちゃん、薬剤師になるんだね」
「えっ、薬剤師?!」
俺は、自分の受かった大学がどういう大学か詳しくは知らなかった。
とにかく自分の学力と受験科目に募集要項を照らし合わせて、受けられそうな大学を無作為に選んで、手当たり次第に受験していた。
そして、何とか一校だけ、ギリギリ受かったのがその大学だ。
薬学と書いてあったから、薬か何かの配合の勉強でもする化学系の大学だろうと思っていた。
そこで、化学に強くなって、特殊な燃料の配合とか勉強できたらバイクの整備に役立つと勝手に期待していた。
それがまさか、俺としてはあまり聞きなれない「薬剤師」とかいうものになる大学だったなんて・・・
「そんな、薬剤師とかになる大学だったなんて、いま知ったよ」
と俺はおばさんに言った。
それを聞いたおばさんは「秀ちゃんらしい」と、思いっきり笑ったが、こっちとしてはそれどころじゃない。大学を卒業したらバイクのメーカーか整備工場に勤めようと思っていただけに、そんなあまり聞きなれない「薬剤師」なんてものになるなんて全くの予定外だ。
やっぱり大学に行くのをやめて、バイク整備の勉強をしようと考えた時、おばさんは哲也の墓に手を合わせて哲也に話しかけた。
「秀ちゃんね、薬剤師になる大学に受かったんだよ。秀ちゃん、きっとあなたの仇を取ってくれるわよ」
作品名:調剤薬局ストーリー 作家名:山村憲司