アイ・ラブ桐生 第一章 4~6
ちょうど、70年安保の直前でした。
学園を占拠した学生運動の過激派たちも、
すっかりとなりをひそめました。
学園改革の波も引き潮となり、学生たちの間には
無感動と無関心という新しい時代の波が広がり始めました。
労働運動史にも残る激しい戦いを見せてきたいくたの労働争議も、
相次いでその決着を見せ始め、権利を守るために繰り返されてきた
いくたの闘争も、ようやく一段落をします。
かろうじて生き残った「70年安保」の闘争だけが、
若者たちの気持ちを高揚させました。
とはいえ・・1950年から始まって10年以上にもわたって
熾烈に繰り返されてきた「安保反対闘争」も、
この70年代の直前に至ってすでに既成事実化がなされ、
たたかっても無駄という空気さえうまれてきました。
あきらめ感が強くなり、盛り上がりに欠けていたことも
また疑いようの無い事実です。
学生たちの街からは、反戦フォークの歌声が消え、
政治に関心を持つ若者がも消えてしまい、
虚無と無関心が横行をはじめます。
それでも一部の勢力を中心として、根強く「安保」を
闘おうと言う機運は残りました。
社会党系の「日本社会主義青年同盟」、
日本共産党系の「日本民主青年同盟」、
さらに極左勢力を排除した、民主的な学生の自治組織などが、
それらの代表格です。
その日は、2階で密談でした。
翌日の、国会デモ行進を前にしての打ちあわせです。
集結地まで行く方法と細かい時間の確認、
さらに途中の車内での注意事項、
不測の事態に備えての対処の仕方などと、帰り道での諸注意・・等々。
要は、グループごとでの、前夜における決起集会です。
ふと視線を感じて振り返えると、
同級生で、見覚えのあるような女の子が一人、
じっとこちらを見ていました。
「さて、誰だろう。」その時は、まったく思い出せません。
作品名:アイ・ラブ桐生 第一章 4~6 作家名:落合順平