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茶房 クロッカス 最終編

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 俺が手紙から顔を上げた時、笑っていたはずの京子ちゃんの瞳からは涙の雫が頬を伝っていた。
「京子ちゃん、どうしたんだぃ?」 
 俺は京子ちゃんの顔を覗き込むようにして、
「――こんな手紙をもらって、嬉しいんじゃないのかぃ?」と、聞いた。
「うん。嬉しくって――」
 そう言って涙を手の甲で拭うと、
「――嬉しくって、この手紙が届いた夜は眠れなかったの。涙が溢れて、拭いても拭いても溢れて……、涙が枯れるかと思ったほどだった。なのに、また……」
 言いながらも涙はとどまることなく流れて落ちた。
 俺は、いつもカウンターに常備の木綿のハンカチを手渡す。
 京子ちゃんはハンカチを受け取り、同時にもう一枚の封筒を俺に差し出した。
「うん? これは?」
 京子ちゃんは涙をハンカチで拭きながら言う。
「どうしようか考えて、やっぱり正直になろうと思って……」
「ん? それは返事を書いたということかぃ?」
「えぇ」
 そう言うと、また涙を拭いた。
「で……これを?」
 俺はどうしていいか困って沙耶ちゃんの顔を見た。
 しかし沙耶ちゃんは顔を横に振って、俺を助ける意思はないらしい。
「出す前に悟郎さんに、おかしい所がないか見て欲しいの」
 京子ちゃんはひたすら俺を見つめて言う。
「あっ、そういうことか。でも、俺が読んでいいのかなぁ?」
「はい」
 ずうっと京平を想っていた京子ちゃんの気持ちを知っているだけに俺は、その手紙を読むのは、京子ちゃんの胸の内を汚れた手で開いて覗くような気がして酷く緊張したし、また申し訳ない気がして複雑な思いだった。
 しかし、その手紙を京子ちゃんが見せてもいいと思うのはたぶん俺だけなのだろうと、自惚れでなくそうも思ったから、俺は京子ちゃんのためだと自分に言い聞かせ、その手紙を開いて京子ちゃんの優しい女らしい文字に視線を載せた。