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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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    十三 あるAV女優へ

 ただいまぁ。
 あれ? 誰もいないのかな?
 もう一回ただいまぁ、っているじゃん。キッチンに。
 あ、後輩だ。
 なんだ? 女といちゃついてやがるのか。
 体操服のコスプレまでして何してんだ。
 まぁいい、好きにやってろ。
 俺は二階で仕事してるから。
 階段を昇る。
 四畳半ほどの小さい部屋。
 ここが俺の仕事場だ。
 資料の山、って言っても印刷物が山のように積まれてるだけで、資料なのかどうかも解らない。
 おっと、後輩の女が挨拶に来た。
 可愛い子じゃないか。体操服着て。しかもノーブラか! 乳首が透けてるよ。
 後輩も上がってきた。こいつは男前なんだ。将来も有望で、マスクも甘い。
 女は顔真っ赤にして乳首隠してる。あはは。セクシーだね。

 ――。
 ん……? あれ?
 雨は止んでいた……。

 やばい、どうやら少し眠ってしまっていたみたいだ……。
 体がちょっと固まる。
 バックミラーをそうっと覗き込む。
「行きましょうか」勇十赤はすでに上体を起こしており、小さい声で口を開いた。
「すみません。うっかり眠ってしまってたみたいで……」
「大丈夫です。戻りましょう」
「わかりました」
 ワイパーを作動させてフロントガラスの水滴を取り除く。
 怒ってるかな……。怒ってるよな。
「では、東名高速で上って世田谷のご自宅まで向かいます。途中で何かあるようでしたら言ってください」
 返答が無いのはいつもの通りだ。怒ってるからではない。
 とりあえず車を出す。雨上がりの路面に反射する街灯の光を順々に乗り越える。



                                完