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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

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あるAV女優へ
 

    一 聖書の解釈

 聖書にも書いてありましたが、天国に優先的に入れるのは子供達と娼婦なんですってね。
 物心がついてからは男も女も後回しにされるんですって。
 何が基準になっているのか、どういう定義でそうなるのか、詳しいことはわかりません。
 でも、その事実は私にとって何よりも心地の良いものでした。
 結局それが神様の本音なんだろうなって。
 けれども世の中は例え神が望もうとも正気の方向に向かうとは限りませんよね。
 一体どっちが狂ってて、何が正しいのか。
 その答えを知ってるのは子供達か、あるいは娼婦だけなのかも知れません。
 
 出会いというのは本当に不思議なものです。
 偶然と呼ばれていたものは、時間が経てば経つほど次第に必然と呼ばれるようになっていく。
 ぼやけて見えていたものが徐々に輪郭をはっきりさせてくるんですね。
 思い出が単なる記号に変わっていきます。
 そうすると大人になるにつれ恐ろしく明快に、簡単に、現在の自分をイコールで導くのです。
 一足す一が瞬時に二であるように。
 それは、過去があられもないスピードで思い起こされ、目まぐるしく過ぎ去っていき、生きてきたというよりかは生かされてきたという気分になるからです。
 たった一本の道、ほんの一筋しか用意されていなかった過去ですが、では未来に広がる無限の可能性とは一体何だったのかと。
 私達の未来はすでに決まっているんです。
 私達の過去はすでに決まっているんですから。
 今現在の私は、日々新しく示された一筋を歩みつつも、自由に生きていくことを未来に向けて約束するんです。
 そこに辿り着くまでの道のりは絶対に自由であるということを。
 そうじゃないと未来の私は、過去に納得しませんよね?

 世界中の誰もがかつてはそうであったように。
 何も知らずに何気なく、いつものようにいつもの場所で。
 裕福だったとか貧しかったとか、美しいも醜いも関係なく、ただ単に子供であった時代。
 無罪で、無国籍で、無条件で。
 何をやらかしても周りの大人達が勝手につじつまを合わせてくれました。
 でもある日突然子供でなくなった時からは、世界中の誰もが天国への保障を失っているのです。
 その日がいつなのかは誰も知らないし、決して知らされることもない。
 そして生きるということの代償はとてつもなく大きいものなのかも知れません。
 いつの間にか子供であることが終わりを迎えると、人は体を売らなければ、天国への優先的な特権は得られない、と。
 すみません、とても残酷な解釈ですね。