D.o.A. ep.17~33
身体能力を一時的にうばう、軽い毒だろうと、たかをくくっていた。
麻痺系の毒の強いものであろうという見立てであった。
だが、明らかに違うと気がついたのは、ロロナの体が徐々に冷えていくのがわかったからだ。
彼女を生かす生命の熱が、時間を追うごとに失われている。
彼女の体を気づかい、できるだけ負担をかけぬよう運んでいたが、意識がないことが明らかになって、それどころではなくなった。
ちんたら走っているヒマなどない。とにかく一刻も早く、野戦病院にたどり着かねばらない。
ようやく目当てのテントを木々の合間に認め、ユーラムは少しだけホッとする。
しかし、すがるような思いで野戦病院をおとずれた彼らを迎えたのは、手厳しい現実だった。
「…ミラファード二等兵はいない…?」
「止めようとしたんですが、それより前にものすごい勢いで飛び出していってしまって…」
こまりきった様子で、衛生兵は答える。
「なら、彼女でなくてもいい、誰か」
ロロナをしめしながら、ユーラムは揺さぶるように訴える。
「誰か、解毒のできる者を」
顔色が鉛のようだ。毒に何の知識もない者でも、これは危険な状態だと判別できる。
呼吸は小さく、浅く、今にも消え入りそうだ。
ユーラムを、とてつもない恐怖が襲う。
冷たい。ひどく冷たい。足元がくずれるような錯覚におちいる。
死ぬのか、この娘が。
だめだ。そんなのはだめだ。だって、本当なら自分がこうなるはずだった。
だから助けなければいけない。助からなければならない。
助けてもらったのに、助けられないなど、そんなことがあってなるものか。
「少佐殿、解毒術をあつかえる者は、この野戦病院に、ミラファード以外は…」
誰もいない、などという。
ちがう。この娘は、ロロナは―――こんなところで命を落とすべき娘では、ないはずだった。
「―――誰か…誰でもいい…ッ、彼女を、俺の大事な部下を、助けてくれ…!!」
作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har