D.o.A. ep.17~33
「あたし…悩んでるんです。兵士をつづけていいのかって」
「………」
「拘束魔術って…すぐにちぎれる縄でしばっているようなものなんです。もちろん、上手な人の場合ならちがいます。
でもあたしは大して魔術の才がないし、かといって剣もうまく使えません。…ぜんぜんむいてないんじゃないかって、…思えてきたんです」
魔術というものは、その術者の精神状態が露骨に影響を受ける。たとえばおもに、己の術に対する自信である。
ここでなぐさめおだててしまうのは容易だ。だが一時的に気は紛らわせても、己に対する根深い不信はそう簡単に消えるものではない。
リノンはなんと返せばよいのかわからず、わずかにうなだれた彼女をじっと見つめていた。
「拘束魔術を始めたきっかけは、…その、憧れのヒトが使っていたからなんです。軽率ですよね。
たしかにあの人の魔術はすごかったけど、あたしが同じようにやれるとはかぎらないのに」
確かに彼女の魔力がうみだす拘束具は、おせじにも頑丈とはいいがたい。
相手の腕力に負け、あっさり砕かれたところを何度も目にしている。
しかし、役に立っていないわけではない。けれど彼女の理想には、足元にすら及んでいないのだろう。
「お、思い切ってさ、他の魔術に鞍替えしてみるのも、一つの選択肢だと思うわよ。
拘束魔術がロロナちゃんに合ってなかっただけかもしれないし」
「………」
「もう!おなか減ってるから悪いほうにばっかり考えるのよ!ほら、なに食べたい?」
メニューをとってロロナの前に広げてみせる。
「カレーライスも悪くなかったけど、個人的に一番はオムライスかなあ!卵があるから他のより時間かかるけど」
「じゃあ…リノンさんのお勧めにしてみますね」
決めると、注文に立ち上がる。
「お勉強、がんばってください。それと…」
「ん?」
「こんな暗くてつまらない話、聞いてくれてありがとうございました。…とってもうれしかった」
ひどくはかなげな微笑をのぞかせ、去っていった。
作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har