小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

D.o.A. ep.17~33

INDEX|39ページ/66ページ|

次のページ前のページ
 



かたや第3軍は、そのような敗北など露知らず、第2軍の担当地域へと歩を進めた。
その行軍は、戦場に向かうというよりか、しいて言うなら遠足にでも行く陽気ささえあった。
大勝を飾った気分の高揚と、この先何があろうと武成王ソードがついていれば敵はない、という楽観によるものである。
いっそ場違いなまでの雰囲気のまま、第3軍は第2軍司令部であるフリットンの町へと到着した。
本来ならば大本営にいてしかるべき武成王が、戦線に立ってくれるという噂は、すでに第2軍でもささやかれつつあったが、

「閣下がおいでになってくださるならば百人力、否、千人力といったところですな!」
「そりゃ言いすぎだろう、千人でかかってこられりゃ、さすがに勝てねえよ」
「またまたご謙遜を、閣下はロノア最強の戦士であらせられますからな。血が疼かれましたかな」
「ところで閣下は先の戦い、まるで一兵卒のごとくはたらいておられたようですが、今後はいかがなされます」
「閣下ともあろうお方には、せめて一個師団は率いていただかねばと検討させていただいておりましたが…」

と、第2軍司令部におとずれた瞬間、むらがる勢いで来られた。
ソードは首をやんわりとふる。
「この戦いでは、俺はイレギュラーだろ。一兵卒でかまわねえよ。存分にこき使ってくれ」
「そういわれましても…」
「当初の人事を狂わせるくらいなら、助けに来た意味がねえってもんだ。自分で言うのもなんだが、俺は戦場で暴れるほうが適いてる」
「然様でございますか…閣下がそうおっしゃるなら」
総司令部のウェイン中佐はしぶしぶ引き下がる。
「閣下のお顔が拝見できて勇気づけられました。それでは私はこれにて失礼いたします」

第3軍司令官リッツ大将も姿を見せた。
「ああ、閣下。このたびは我が第3軍を助けていただいたそうで…」
「そんなことはいい。やつらの動きは?」
「いや、それがなかなか出てこぬものでございます。第2軍の兵に安心だけは与えられたといった戦果ですよ」
どうやら第3軍リッツ大将の先んじた合流の甲斐なく、いまだ大軍港に動きはなく、小競り合い程度しかおきていないという。
第2軍司令部は、いまや全軍の重役が集う場と化していたが、計算上すでに到着しているであろう第1軍の面々が見当たらぬことに気づく。
「第1軍はどうした?」
「は、なにやら予想外にてこずっておるようですな。到着はまだのようです」
「意外だな」
ダナルによれば、出発の前日にはすでにいくさを始めていたようだった。突っ込んで訊こうとしたが、第2軍は詳細を知らないようである。
「ただ、今のところ総司令部からの通達によりますと、白い甲冑の“鬼兜”に気をつけよ、とのことでございます」
「オニカブト…」
「第4軍は軍港を守りきり、すでに動いているとの報告であります」
「そりゃ頼もしいな」
一兵卒でよいとは言っても、結局は矢つぎ早に彼のもとへ情報がもたらされるのである。
ソードは古い椅子に腰掛けると、あごを指でかかえてなにやら思案している様子を見せた。
ふと窓の外を見ると、今にも泣き出しそうな曇り空が、陰鬱な空気を醸しだしている。





知った顔をみつけて、ライルは駆け寄っていく。
「スティング…先輩!」
「ああ、久しいな、ライル」
四角い黒縁のめがねのつるを持ち上げて、常のようにきっちり髪を七三に分けたスティングが応える。
「ところでダナルやヘクトはどうしたのだ?」
彼はダナル、ヘクトとともに、ライルが入軍前によく相手をしてもらっていた先輩で、現在は兵長である。
この3人は妙にウマがあい、よく行動をともにしていたのだが、スティングだけが第2軍に離れていた。
スティングとヘクトは根が生真面目なので気が合うのは納得できる。
しかし、まるで規律を乱すことを使命とでも考えているかのようなダナルなど、ウマがあうどころかどう考えても癇に障りそうなものだ。
この3人が仲のよい理由が、いまだ理解できないライルである。
「疲れたって休んでた。ちょうど着いたところなんだ」
言って、彼らのいる方角を指差すと、そうか、とスティングは微笑んだ。
「しばらく見ないうちに見違えたぞ。ずいぶんキリリとした顔つきに変わったな」
「うん、そのことだけど、顔はともかく最近、不思議なくらい調子いいんだよ」
「それは結構じゃないか。君にはすばらしい才能が秘められてると、俺は常々おもっていた。戦場で一気に開花したのかもしれんな。
次の戦いも共に存分に力をふるおう」

雑談をしつつ歩いていると、ぽつぽつと雨が降りはじめた。
雨宿りするかと提案したところ、スティングはこの程度なら濡れたい気分らしいので、付き合ってやることにする。
「ソードさんが来てくれたと聞いたぞ。俺はあの人の実戦の剣を見たことがないのだが、どうだった?」
どうだった、などとたずねられても。
ライルも、ソードの戦いを見るのは初めてだったのだが、あそこまで圧倒的だとは知りもしなかった。
あのオークが、他愛無く吹き飛んで舞い上がっていく光景に、どれほど頼もしさを感じたかは、説明しきれるものではない。
「ん、まあ…すごかった」
ゆえに、月並みな表現しかできなかった。
「これから先、何が起こるかわからないけど、俺たちが死んでもソードがいればロノアは勝つって、信じられたよ」
目を閉じて安堵の顔をする彼に、スティングは存外気にまばたきをする。
眼前の少年が死をさらりと覚悟していることに対し、驚きを隠せなかったのである。
たしかに戦争は死を覚悟してしかるべき事業だが、「死の覚悟」とライルが、スティングの中ではかけ離れた二つだった。
7歳下の少年の横顔に、立ち入りがたいまでの深淵を感じとって、おもわず眉をひそめてしまう。
しかし、そのような微妙な顔色も、雨がはげしくなると、途端にかき消えた。
「やばいよ先輩ッ、これはさすがにカゼひく!」
「あ、ああ。じゅうぶんに戦えなくなったら元も子もないな」

だれの家かもわからぬ軒下にふたりでお邪魔して、雨を避けた。
しばらくやみそうにない空模様になっている。
適当な木箱に腰を下ろし、空をぼんやりと見やった。
会話はなかった。
低い雷鳴が、雲の中に閉じ込められている。
いっそ落ちてしまえばいいのに、と、ふたりはもどかしくおもうのだった。


*******

作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har