D.o.A. ep.17~33
ロノア王国海軍は、世界最強の名に恥じぬべく、各船未知なる敵に対しよく戦った。
けれども現実とは彼らのどのような覚悟も意に介すことなく、ロノア王国海軍は辛酸を舐めさせられることと相成ったのである。
未知なる砲弾の前に、被害状況はロノア側が圧倒的であり、陣形はことごとく壊乱していた。
すると、乱れたロノア海軍をなぎ倒すいきおいで、敵船隊は再び速度を上げはじめた。
防衛船隊は、猛獣に喰い散らかされたあげく置き捨てられるかたちになる。
血相を変えて追いたいところだったが、戦闘による被害は予想以上にすさまじかった。
実に総数の約三分の一以上の船がしずみ、残りの船もほとんどが敵弾の洗礼を手ひどく受けていて、一刻も早い処置が必要だった。
早い話が、追おうにも追えない状況だった。
防衛船隊には、船は強くて速いものを、軍人は優秀な者をえらんで、この海域にひっぱってきた。
それがこのザマである。
大半を撃沈させるつもりでえらびぬいた軍団が、こうも惨憺たる敗北をさらしている。
―――我が誇りの海軍が、あんな魔物どもに、負けた。
悔しくて、そのつらさのあまり、海軍軍人たちは涙をこらえきれなかった。
「長官!しっかりしてください、長官ッ!」
満身創痍は旗艦も例外ではない。
砲弾により、船橋に立っていたエンボリスは、爆発に巻き込まれて負傷していた。
辛うじて死なずにすんだのは、近くにいた部下が身を挺して、その命と引き換えに守ったためである。
「被害は…」
血まみれの彼は息も絶え絶えに、かすれた低い声でいう。
「まだはっきりとはしておりません。ですが、見たかぎり、二度と使い物にならぬような船がいくつも」
エンボリスを抱き起こす士官は、あざやかなる快速で去ってゆく敵船隊をにらみながら応じた。
ロノアには軍港がひとつしかないわけではなかったが、満身創痍のこの船隊が向かうには遠い。
しかも大船隊専用として税を注いだ軍港にくらべ小さく、小船隊ならば可能だが、大船隊はとても碇泊させられないものだ。
大軍港を抑えられたら、魔物にいつ船底をつつかれるかもわからぬ海原で、多くの船が補給も救助もなく漂いつづけるしかないのである。
その恐怖に、彼らは戦慄をおぼえた。
「動ける船を…集めて…」
「どうなさるのですか…?」
「その、船に…無事な者を、できるだけ乗せて、とにかく、港へ…。 報告を…」
そこまで命じると、がくんと彼の体から力が抜け落ちる。
死んだのではないかと士官はヒヤリとしたが、さいわい気絶しただけらしかった。
それでも放っておいてもよい怪我ではない。
この人を死なせてはならない。その命令は、すぐさま実行にうつされた。
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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har