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Ep.19 王都モンテクトル

ロノア王都であるモンテクトルには、防壁がない。
それにはこんな理由がある。
かつて、このトータスには、二つの王国があった。
北半分を占めていたロノアと、南半分を占めていたラルバである。
古来より隣同士の国は仲がよろしくないと相場が決まっているが、この二国もやはりその鉄則から漏れなかった。
とはいえ、大きな戦いはめったになく、国境での諍いがあるくらいであった。
ところがそのような拮抗状態が、とある国の商船の漂着により、一変することとなる。
ロノア国領の海岸に偶然流れ着いた商船は、見たこともないような武器を搭載していたらしい。
当時のロノア国王は、すぐにそれを手に入れ、研究するよう命じた。
新兵器を手にしたロノアの兵は、ラルバ国境の兵士を蹂躙、ラルバ国領へ侵攻し、わずか２日ほどでラルバ最大の砦を攻略した。
それからは、もはや戦いですらなかった。
新兵器の猛威を阻まんとするのは砦ではなく、人間というただの肉の壁だった。
散々死人が出たのち、ついにラルバの国王は降伏した。遅すぎた決断だった。
ラルバの王族は、遅すぎた降伏により民の恨みを買って、人知れず皆殺しにされたといわれる。
こうしてトータスは、あっけなくロノアに統一支配されたのだった。
戦後、ロノア国王はある命令をくだした。
ロノア城は、山というより丘のような高地に築かれており、ちょうど城下町を見下ろすかたちで、それを丸ごと防壁がかこっている。
その壁を打ち壊せというのである。
かねてより王都モンテクトルをもっと広く大きくしたいと思っていたのに、敵がいない今そんな壁など邪魔なだけだった。
こうして、長きに渡り王都を守りつづけた石の壁は、１年とかからず、消滅した。
防壁のないモンテクトルは、いわば勝利の証であった。
後世からみれば、壁を完全に取っ払ってしまったのはいかにも早計であろう。
しかし海をこえるてだてがさほど発達していない時代、陸続きに敵がいなくなれば何の憂慮もなしとしてしまったのも無理のないことだったかもしれない。

「すなわち、陸軍は王都からできるかぎりはなれた地点でことをかまえ、撃退する」
陸軍大将ホーネッカー＝ラドフォードの話は序章が長いが、本題にはいってしまうとあんがい簡潔だった。
「敵がいつなんどきやってくるか、今のところ不明である。しかし我が国の四方が海である以上、海をこえ来るほかなく、戦況は不意討ちといえども我らにさほど不利ではない。
海軍が発見しだい近海でたたく。沿岸に待機する船隊と巨砲が迎えうつ。さらになお突破されたらわれわれの出番である。何重にも防衛線をしき、海から襲いくる敵勢を、完膚なきまでに撃滅する！」
力強く握り拳を振り上げ、ラドフォード大将は足もとを踏み鳴らし、
「不意討ちなどとは卑劣千万である！かようなものどもに我ら精強なるロノア軍が敗北する道理があろうか！否だんじて無い！貴官らは持てる力すべてでもって、この国を防守せよ！」

かくして、大演習は幕をあけたのである。



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