超短編小説 AKASHI~交錯し、交わる想い~
教室で、先生との最後のホームルームが終わる。
ハヤトは席を立ち、アカネにそっけなく、
「……じゃあな」
と言った。アカネも、
「うん……バイバイ……」
と、彼に別れを告げた。
親友である秋月智志と共に教室から出ていくハヤトを、アカネは淋しそうに見つめた。
「……っ!」
アカネのらしくない姿を黙ってみることができなかったナギサは、ハヤトを追いかける。
「ハヤト君! ちょっと!」
ナギサは、下駄箱の前にいるハヤトの手を掴む。
「お、おい! 急に引っ張るなよ!」
ハヤトはナギサに、下駄箱前の廊下へと強引に連れ出される。
「一体、なんだよ……」
何が何だか状況がのみこめないハヤト。
「なんだよ、じゃないわよ! このままで本当にいいの!? アカネは、ハヤト君のことが……」
「……!」
アカネの気持ちを必死に代弁するナギサ。
そんな彼女の優しさが伝わらないハヤトではなかったが、気持ちを押し殺すように、
「いいんだよ……このままで……」
と、静かに出て行った。ナギサはそんな彼を、ただ見つめることしかできなかった……。
自転車でトモシと一緒に家に帰る道中、
「なあ、ハヤト。ほんとに良かったのか?」
と訊ねられる。
「何のことだ」
何事もなかったかのように答えるハヤト。
「大山さんの事だよ。何も言わなくていいのかよ。後悔しても知らんぞ」
「……」
「何もないなら、いいけどさ……絶対に行った方がいいって! 言うと言わないのとでは、後悔の大きさも違うはずだぜ。おまえにとっての大山さんは、そのくらいの存在だったのか?」
「それは……」
ハヤトの脳裏に、アカネがJR藤生駅で淋しそうにしている情景が焼きつく。
彼女とこんな別れ方をすることが納得できない自分に、ようやく気づいた。
「ああ~もうっ! 分かったよ!」
髪をくしゃくしゃにしながら、ハヤトは覚悟を決めて、学校へと引き返していった。
アカネは、ナギサと共に藤生駅のプラットホームにいた。中国電力火力発電所の鉄塔から、煙がもくもくと淋しそうに湧き上がる。
電車がプラットホームへ静かに入ってくる。
(これで、いいんだよね……)
自分にそう言い聞かせて、アカネは電車の中へ入ろうとする。しかし、そのとき!
「アカネーーーーッ!!」
幻ではない! 学校へと続く駅裏の道路から自分を叫ぶ者が! そう、彼こそ!
「ハヤト!!」
アカネは精一杯の大声を出して、彼の名を呼んだ。
ハヤトは、急いで自転車を置いて駅裏の柵をよじ登り、アカネの下へと来る!
ハヤトは勇気を出して、アカネに―。
彼の想いにアカネも素直に―。
そして、二人は抱き合い、実感した。
人生で忘れることのできない、闇と光が交わった想い―『証』が胸に刻まれたことを―。
作品名:超短編小説 AKASHI~交錯し、交わる想い~ 作家名:永山あゆむ