とどろく閃光
ACT3秋夫
かなりの速度で彼は園子の手をぐいぐい引っ張って走っていく。
幽霊屋敷からだいぶ離れたところでやっと園子の手を放してくれた。
ふうっ。
園子は肩で息をしていたけど、彼は息を少しも乱さず、園子の息が収まるのを待っていた。そして
「本当に龍香さんの妹なの?」
と聞いた声の中には少し侮蔑が混じっている気がした。
どうせいつも比較されてますよ。
かなり勘がいいほうらしくて、彼はすぐに園子の怒りを感じ取ったようだ。
「すみません。だいぶ違うようだから。」
そして、にっと笑った。やっぱり小ばかにしているようだ。
「誰なの。あなたは。」
園子がみつるたちに自己紹介していたのをこの男はあの小部屋で立ち聞きしていたのだろう。食品会社関係者にせよ、なんだか部屋に潜んでいるなんておかしなやつだ。
「龍香さんの同僚の秋夫といいます。」
やはり会社の同僚なのか。でも、せいぜい園子と同い年ぐらいにしか見えないのだけど。
背は少し高いようだ。あれだけ走っても息も乱さなかっただけあって、体は精悍で少しも無駄な贅肉はついていないようだ。特色あるのは理知的な目。どことなく冷たさも感じる。
そう、なんだか人を見下すようなまなざしだ。
「姉はどこにいるの?」
園子は姉を追いかけてきたのだから。
秋夫はちょっと肩をすくめた。
「とにかく、家まで送りますよ。」
「結構です。」
そのとき着信があったらしく、秋夫は携帯電話を取り出して耳にあてた。
今のうちに逃げ出してしまおう。園子は坂道を降りだした。
「え?彼女を会社に?でも、それだと龍香さんが・・・」
会話が聞こえた。
「はい。わかりました。」
秋夫は電話を切って園子のほうを見た。もう、だいぶ坂道を降りかけている。
「待ってください。龍香さんに会わせてもいいそうです。」
園子は振り返った。
秋夫が坂道をゆっくり降りてくる。改めて見てみると、やはりさほど年は違わないように見える。話し方はなんだか大人びているけど。
大人びている?人を食ったような話し方というのよ。
なんだか気に入らなかった。
そういえば、あの少女摩訶も小さいのに大人っぽい話し方だっだけど。
でも、あの二人には茶目っ気というか、愛情があったな。兄弟には見えないけど・・・。
「車を呼ぶので待ってください。」
そう言って秋夫は電話をかけている。
このまま先へ行ってしまって巻いてしまおうか。園子は考えかけた。
秋夫はなんとなく読み取ったようだ。
「これも仕事なんです。あの家を見張っていたら、あなたが入って行ったので気になって侵入したんです。」
食品会社の社員がなんで家に不法侵入するのやら、園子はますます疑念がつのった。
「あなたはなぜ、この家に?園子」
いきなり呼び捨てされた文句を言うよりも前に、園子はぎくっとした。
そういえば、私もこの人から見たら、わけがわからないかな?
「二人子供がいたでしょう?なんだか、あなたがあの二人の知り合いのように見えたものだから。」と秋夫。
「子供って、あなたも同じようなものじゃない。」ぱしっと園子は決め付けた。
秋夫のひるんだ顔を見て、やっぱりと園子は思った。
「まぁ、そうだけど。」と笑った秋夫は少しだけ本心を見せた気がした。