西野氏
罰
休日の朝、西野は8時ぴったりに目を覚ました。
「なんてことだ! 8時ぴったりに目を覚ますなんて! きっとこれは、俺が幼い頃母親に欲望を抱いていたから罰が当たったにちがいない。時間のやつが、世の中の憎むべきやつらと結託してうまい具合に伸び縮みしたのだ。時間のやつめ、今の今までずっと復讐の機会を狙っていたのだな。」
西野がカーテンを開けると、窓の外には快晴の空が見えた。
「なんてことだ! よりによって休日が快晴だなんて! きっとこれは、俺が幼い頃蟻を沢山踏み潰して殺したから罰が当たったに違いない。蟻はああ見えても空間のやつと仲がいいから、空間のやつに頼んで雲を消してもらったのだ。空間のやつめ、俺の肉体だけは消させはしないぞ。」
西野が外を歩いていると、500円玉が落ちていた。
「なんてことだ! 500円玉を見つけるなんて! きっとこれは、俺が学生時代窮地に陥っていた友人を見捨てたから罰が当たったに違いない。あの友人は実は硬貨で出来上がっていたのだ。いつも金属のにおいをさせていた。あいつの仲間が俺を待ち伏せしていたのだ。」
西野がコンビニに入ると、とてもきれいな女子大生の店員がいた。
「なんてことだ! こんなに美しい女性に出会うなんて! きっとこれは、俺が小学生の頃に女の子をいじめたから罰が当たったに違いない。そういえばあの子は山登りが好きで、いつしか山の意志をコントロールできるようになっていた。女はみな山から産まれるものだから、あの子が山に働きかけてこのような美人を生み出し、その美しさで俺を攻撃したわけだ。これからどんな美人に攻撃されるか分かったものじゃない。」
西野が信号を待っていると、側面からバイクに追突されて、2メートルほど吹っ飛ばされた。幸い車通りは少なかったから大事には至らなかったものの、西野には自分に何が起きたのかすぐには理解できなかった。バイクから降りてきた若い男性が、西野にしきりに謝り、西野の手を取って立ち上がらせた。
本物の罰が当たって、西野はもう何も考えられなかった。