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【HP過去作】 SHAZNA神社 【2002年(17歳)】

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短編小説 シャズナ神社 前編



西暦2010年。人類は少しだけ進んだ文明を築き、
少しだけ誤った道を歩み、そして少しだけ愚かであった。
「メルティラヴ・・・」
俺はカズラ。14歳。この寝言は、できるなら言いたくはない。
しかし、あの忌まわしい事件以来、この言葉を忘れた事はない。
そう、これから始まる悪夢の、キーワードなのだから。


シャズナ神社 前編


「ねぇカズラ、社会の宿題どうする?」
目を開けると、キヨミが青空をバックに上から覗き込んでいる。
だんだん意識が戻ってきた。3時間目の数学をサボって
俺は学校の屋上で昼寝してたんだっけ。
「ネオキジン{寝起き人}にそんな事聞くなよ・・・あぁ、なんか寒ぃなぁ・・・」
寝呆け眼で俺は尻を掻いた。瞬間、血の気が引いた。
「・・・はっ、はっ、穿いて・・・な・・・」
いつもそこに存在するはずの布が無い。
爪筋のケツにペチペチと当たる嫌な感触。
「これ?」
あった。俺の布。
「はっ・・・バカ!よこせコラ!」
「別にいいじゃん。ねぇ、この股間の物体って普段からこんなに
そそり立ってるもんなんですか?芸能リポーター梨本です」
「違うよ。寝起きだから・・・って何でお前携帯出してんだよ!」
「写メール」
「何を撮ってんだよ!やめろ!今すぐ消去しろ!」
「嘘だって。そんなもん友達に送ったら私の人格疑われるもん。
誰も見ないし、見せる価値も無いし」
「見せる価値無し・・・他人の息子いちいち格付けチェックしやがって。
ほら!パンツよこせ変態女」
「ん。それより社会の宿題さあ」
「20世紀の人の事について調べなさいってやつか。面倒臭えなあ」
「シバ先生、宿題忘れると、怖いよ。
電磁ネクタイでピチピチやってくるから」
「やられた事あるんか?」
「うん。しかしなんでネクタイが電磁を帯びてるのかねぇ。
人類は間違った方に科学を進歩させたね」
「訴えてやれよ。セクハラ極まる、だぞ」
「まあ、そうだけど・・・って、あんた何帰る支度してんの!
まだ4時間目あるでしょうが!」
「なぁキヨミ、お前知ってる?この学校の近くに、神社があるんだぜ」
「今どき、神社?このご時世に何を祭ってるの」
「今から4年前の、あのテロ事件はお前覚えてるだろ?
国家主要人物がいっぺんに惨殺された」
「ヴィジュアルの乱」
「そうそう。平成18年、人々に忘れ去られたヴィジュアル系の
一人の男が、国会議事堂に爆弾を仕掛け、首相始め29人を殺害。
国家の基盤を揺るがす未曾有の大事件だったな」
「なんだったっけ?爆弾の名前」
「メルティラヴ」
「そうそう、メルティラヴ。
あの時、私まだ小学生だったから詳しい事は覚えてないや」
「その主謀犯、死刑になったんだけどその後、ひどい崇りが起きてな。
そいつの魂を鎮める為に、政府は神社を作ってたんだよ。
その神社、場所は極秘裏だったんだけど、こないだ、
ミチオがたまたま裏山に入った時に」
「見つけたの?」
「ああ。んでさ、俺たち二人で今日調べに行くんだ。
だから、じゃあな。もう他人のパンツ脱がすなよ。嫁入り前なんだから」

ミチオは、はっきり言って非モテ系だ。気も弱い。
しかし、男子の仲間からは絶大な人気を誇っている。
何故なら、それを補って余りある程魅力的な男だからだ。
圧倒的な女体の知識。エロDVDの所持本数。秘蔵のお宝映像。
俺とミチオは、何故だか一番の親友になっていたが、決して
下心があった訳ではない。
アダルトDVDだって、5回しか貸してもらった事がない。
まあ、それはさておき、
校門前には、もうミチオが待ち構えていた。
「カズラ君、よく来たね。キヨミさんも」
「よう、ミチオ・・・って、
キヨミ、お前何でいっつも首突っ込んでくんだよ。
崇りがあるかもしれねぇんだぞ」
「いいじゃん。このデジタル社会に崇りなんて笑えるもん。
それに、『メルティラヴ』を作った犯人が祭られてる神社なら、
宿題にもなるし、一石二鳥だわ。
ねぇ、ミチオ君、いいでしょ?」
ミチオが戸惑う。
「いや、でも・・・危険だし、それに・・・」
「ねえー」
上目遣い、甘える声。むかつく事に、
キヨミは雌の色気を散々に振りかざしてみせた。
「あ、ああ・・・いいけど」
「キヨミ、お前その生き方だと、いつか痛い目に合うぞ」

その神社は、うっそうと生い茂る草叢の中、更に人目を避けるように
存在している・・・らしかった。
「ったく、なんだってこんな大層な所にあんだよ」
三人は得体の知れない植物を掻き分けながら進む。
時折、食虫植物に食われている人が居る。
確か、あれは20世紀の芸人の山崎邦正だ。
だけど、俺らは意地でもあいつで宿題済ませたくないよな、
と言いあって、無視して進んだりした。
「あ、フェンスだわ。行き止まりね」
「おいミチオ、こっから先危険につき立入禁止って書いてあるぜ」
「いいかい、二人とも。人類は、進化の過程をこの数十年で完全に
止めてしまったんだ。その原因は解る?機械の発達と、もう一つ」
「もう一つ?」
「好奇心の喪失だよ」
それだけ言うとミチオは軽々とフェンスを乗り越えてしまった。
「・・・はぁ、行くしかねぇか」
「ええーっ!?」
俺は軽々とフェンスを越える事ができた。
しかし、やはり問題は無理矢理付いてきたあのバカ女だ。
「あー、登れない!あー!あー!」
俺は早く行こうぜ、とバシッとミチオに言ってやろうと思った。
「なあ、ミチオ・・・もういい加減・・・」
「・・・ねぇカズラ君、キヨミさんって結構かわいいね」
「は!?お前・・・何言ってんだ!?」
「きっとああ見えて家では純情なんだ。
部屋にはヒヤシンスの球根が置いてあって、
休日にはサラダばっかり食って、
馬刺しなんか食わないんだろうなぁ」

駄目だ。こいつ完全にイッてる。
エロ魔人のくせに、知識が現実世界と結びついてない。
俺はさっき奴にパンツを脱がされた事を
言おうか言うまいか必死で悩んだが、男の恥なので
言わない事にした。

「ここが、境内の入り口だよ」
俺達は少し広くなった所へ出た。神社と言うだけあって
なるほど、ずっと奥に社堂みたいのがぼんやりと見える。
「おい、この鳥居見てみろよ!腐ってるぜ!
この文字・・・何て読むんだ?」
キヨミが目を細めて英単語を解読する。
「えーと、SHAZNA・・・・・・シャザナ?
きっと動物の名前かなんかじゃない?『稲荷』みたいに」
「おーい」
「あ、ミチオ、あいつ気ぃ弱い割りに行動派だな。
もうあんな所まで・・・」
「うわっ!」
その瞬間、ミチオの姿が突如道傍の藪の中へ引き込まれた。
「!!」
徒ならぬ事態を感じた二人は一瞬だけ目を合わせて、すぐに走り出した。
「ミチオ!!」
そこには、もうミチオの姿は無かった。
「ミチオ君が・・・消えた・・・?」
「こ、ここ・・・ただの神社じゃないぞ!!」
風がそよぐ。
俺たちの不安を煽るように、恐怖の灯火に決して触れないように。
「『メルティラヴ』の崇りだ・・・」
ただ、ミチオの消えたその場には赤い液体でこう一言だけ、
記されてあった。

「すみれSEPTEMBER LOVE」


つづく