おひなさま
「お母ちゃん! お姉ちゃんの様子がおかしいねん」
ドタドタと部屋にかけ入ってきた貴代美の顔は、蒼白になっていた。
「どないしたん?」
はよ来て! という貴代美の後に付いて雛壇の飾ってある部屋に入って行くと、貴子が横向きになって寝ていた。
「貴子、しんどいんか?」
返事がない。覗き込んで額に手を当てるとひんやりとしている。
雛壇のそばに酒瓶があった。お父ちゃんが好んで飲んでいる、高山の濁り酒。昼前に飲んだ甘酒と勘違いしたのだろうか。
「あんタ・・わざとこれ飲ましたんちゃうやろな!」
「なんでそんなことするのん! それ昼に飲んだ白酒とちゃうんか? お姉ちゃん、白酒おいしかったからこそっと飲もって・・うちはあんまし好きやのうたから飲まんかったけど、お姉ちゃんは、あもうておいしかった、ゆうて」
「えげつないことゆうて勘忍な。それより早よ医者や。いや救急車!」
私の脳裏に昔のことが蘇った。
家族や医者が見守る中、姉の亜耶は息を引き取った。
父も母も留さんも店のもんも、突っ伏して号泣した。
私はその時どうしていたのだろう・・ただ黙ってみんなの様子を見ていたような気がする。