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おひなさま

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 昼食時、家族みんなで節句のお祝いをした後、私は姉とふたりで雛壇の前に座り、菱餅を頂いていた。その時の私は・・姉に対する嫉妬の気持ちを強めていた。
 なんでも姉が中心になって進んでいく。そう、私にはなんでも姉のお古が回ってきた。
 しかもその頃の姉は、うちのおひな様やで、と何度も繰り返し言っていた。
 だから・・・だから? 私は何かしたような気がする? が思い出せない。
 
 その日の夜中、姉は苦しみ出した。
 横の布団で寝ていた私は怖くなってしばらく寝たふりをしていたが、姉のうめき声は次第に大きくなり、それを聞きつけた留が障子を開いて入ってきた。

「とうさん、どないかしはったんですか? ちょっと開けますで」

 それからが大騒ぎとなった。
 父と母は慌てふためいて部屋に入って来ると、私の寝床は両親の部屋に移された。
 店のもんは叩き起こされて医者を呼びに行くもんや、医者を迎える準備をするもんやらで忙しく動き回っていた。
 女中らは湯を沸かしたり、布を用意したりしていた。
 私は震えながら、廊下の柱のそばでそれらを見守っていたのである。

 なんでおねぇちゃんがくるしみだしたんか、ぜったいにだれにもゆうたらあかんのや、と心の中に仕舞い込んだ、ということまでは思い出せた。
作品名:おひなさま 作家名:健忘真実