おひなさま
「お母ちゃん、このひな人形えらい古いなぁ」
私は娘の貴子、貴代美らと一緒に雛段をこしらえていた。
毎年喜んで飾っていたのに、今時こんなことを言い出すなんて、見る目が肥えてきたという成長の証なのかもしれない、とその時は思った。
「お母ちゃんが子供の頃のもんやさかいなぁ。何年になるんやろか。姉ちゃんが大切にしてやったんやけど、死にはったやろ。そんで母ちゃんのもんになったんや」
「お母ちゃんのお姉ちゃんて、いくつで亡くならはったん?」
「お母ちゃんが五つの時やったさかい、12、やな。もう29年になるんやなぁ」
「ふーん。今のあたしの歳やんか。なんで死なはったん?」
貴子は興味しんしんといった風に目を輝かせて聞いてきた。
「お腹の具合が悪うならはったんや。急性腹膜炎やて聞いてる」
ほんまに腹膜炎で死なはったんやろか? 心の奥に封じ込めていた情景が、少しずつ顔をのぞかせ始めた。