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おひなさま

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「そや、沙耶ちゃん、菱餅作ったあるさかい」
 おかぁちゃんは立ち上がって水屋の網扉を開けると、菱餅の乗った三方を取り出してうちに渡した。

「ほれ、これ持ってあっちの部屋行っとき。お姉ちゃんは?」
「おひなさんかざってる。おねぇちゃんナぁ、さやにおひなさんさわらしてくれへんねん」
「そばで見とったらよろしいがな。さっ、あっち行っとき」
「なぁ〜かぁちゃん、さやもおひなさんほしいぃ」
「お姉ちゃんのんがありますやろ」
「うちのんがほしぃんや」
「家にふたつも飾れしまへん。あれはな、ふたりのんです」
「おかぁちゃん、おねぇちゃんのやゆうたやんカあぁ」
「分からんことゆうとらんと、あっちの部屋行っとき」
「あてがお連れしまひょな。ごりょんさん、ちょっと前を失礼します。さ、こいさん行きまひょうな」

 べそをかきながら、三方を受け取ったお留に手を引かれておねぇちゃんがいる部屋に戻った。
 うちはその時思ぅた。
 おねぇちゃんがおらんようになったら、おひなさんはうちのもんになるんちゃうやろか。
作品名:おひなさま 作家名:健忘真実