おひなさま
「おねぇちゃァん、さやもかざらしてぇェ」
「あかん。沙耶は乱暴やから、壊してしまうやろォ」
「いろてもええやろォ。そォーっといらうからぁ」
「アカンてぇ、あっち行っとき。飾り付け終わったら呼んだるさかい」
「いけずぅぅ!」
ふくれっ面をして部屋の障子をバタン! と閉めると廊下を走って台所にかけ入った。
おかぁちゃんは板敷きに座って、女中のお留と一緒に団子を作っていた。おかぁちゃんのそばに寄って手元を覗き込んだ。
「おかぁちゃん、だんごつくってんのん? さやもまるめさしてェぇ」
「あ、こいさん、いろたらあきまへんで。猫いらず入れてまっさかい」
「お雛さん出したついでにナ、猫いらず仕掛けとこ、思ぅて」
「ねこいらず、ってなにィ?」
「猫がおったらネズミおらんようになりますわナ。ネズミがこれ食べよったら死ぬんですわ。しやから、猫がおらんでもネズミがおらんようになる、っちゅうこってす」
おかぁちゃんが平たくした団子の真ん中に、お留が茶色いもんをチューブから絞り出して乗せると、おかぁちゃんはそれを丸めて半紙の上に乗せた。
「おいしそうなだんごやなぁ。これたべたらしんでしまうん?」
うちはひとつつまんで匂いを嗅いだ。
「あっ、こいさん、あきまへん! 匂い嗅ぐんもあきまへん。これひとつ食べたらものごっつう苦シぃなって、死んでしまうんですわ」
「ねずみさん、かわいそうやなぁ」
「ネズミさんナ、大切なもんいっぱい齧ってわやにしてしまうやロ。そやから仕方なイのん」
「ふぅ〜ん」