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おひなさま

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 見舞いに訪れた留さんはもう70歳を超えているのに、50年前の記憶は確かだった。
「なぁ、留さん」
「なんです? こいさん」
「いややわぁ、もうこいさんやなんて歳とちゃいます。沙耶でよろしがな」
「フフ、アタシにとってはいつまでもこいさんです。で、なんですのん?」
「お姉ちゃんが死なはった時のこと・・・お姉ちゃんホンマに急性の腹膜炎やったん?」
「そうです。医者の見立てです。何を気にしてはりますのん」
「ホンマは毒食べて死なはったんやろ?」
「なんちゅう事言わはんのん。そんなことあるわけおません!」
「そやかてな、うちお姉ちゃんに猫いらず食べさしたんや」
「猫いらず?」

 留は空中を睨んで記憶を呼び戻した。そして沙耶を見つめた。
「とうさんが亡くならはってその前・・・雛壇作ってる日でんなぁ、立春過ぎたばかりの頃・・そうそうお雛さん出したついでに猫いらず入れた団子作ってたんですわ。毎年してたことですでな、よう覚えてます」
「その猫いらずのチューブをな、水屋の引出しに見つけて、菱餅に付けて姉ちゃんに食べさしたん」
「ホンッホンッホンッ、そんなはずおませンって。猫いらずのチューブはすぐ捨ててます。いとさんが見つけたんは、チョコレートのチューブですわ。よう引出しに入れてたんです」
「チョコレート・・ほんまに猫いらずやなかったんか?」


 真実を知って、安堵の気持ちを得て
 沙耶はこの世を去った。


 めぐり来た立春が過ぎると、貴代美は母のお雛さんも並べて飾ろうと思い、蔵から運び出した。
 箱には穴が開き、お雛様の首はネズミに齧られて折れていた。

 誰かの災いを身代わりとして、受けてくれていたのだろうか・・・
 そう、沙耶を守り続けていたのかも、しれない。
作品名:おひなさま 作家名:健忘真実