おひなさま
「お雛さん飾るのん何年ぶりやろ。しかもさらやし、ふた組も。お母ちゃんありがとう」
「結衣と結芽の初節句やでな。お雛さん、質素にしたけど綺麗やなぁ。やっぱり桃の節句は華やかにしたいもんやわ。貴子が死んでからお雛さん見るんが嫌で、しもたままにしてたんやけど」
「年代もんのお雛さんもエエ思うよ。雛壇も並べてみようや」
「いいや、今年はこれでええ。女の子がまた生まれたらまた買おな。お雛さんはひとりずつひと組がええんや。それぞれのお守りなんやし」
貴子が死んでから思い出した幼かったころの行為は、ずっと私を苦しめ続けた。
そしてついに病を得てしまった。
だましだまし病院を避けていたのだが、どうしようもない倦怠感からいくつもの検査を受け続けた結果、胆のう癌であることが分かり、その時にはもう手の施しようがなかったのである。