おひなさま
貴子を仏間に寝かせると、家族みんなで湯灌と死に化粧を施した。
その後ひとりで雛壇の置いてある部屋に入ると、あひる座りをしてお雛様を眺めながらボォーッとしていた。
「姉ちゃん・・うちに祟ってんのん? だんだん思い出してきたんや」
おねぇちゃんがおらんようになったらこのおひなさんはうちのもんになるんや、と思ぅた私は、水屋の引出しから猫いらずのチューブを見つけ、菱餅に付けてお姉ちゃんに食べさした・・・
いつの間にか母が横に座っていた。
そっと私の手の甲に自分の手を添わせ、涙声で力なくつぶやいた。
「またこの家(うち)で不幸が起こってしもたんやなぁ。貴ちゃん、12歳になってたんか・・亜耶が死んだんとおんなじ年やないかぁ」
うううう……
「お雛さんゆうたら(ウッ)、子供に・・災いが降りかかりませんように、て。(ウッ、ウッ)幸福に(ウッ)なりますように、てお願いして飾ってんのに(ウッ)・・人形供養に・・出してしもたら・・どないやろか(ウウーッ)」
「お母はん、(グスンッ)これは・・沙耶のお雛さんです(グシュグシュン)。どうするかはうちが決めます」
年代物のお雛様は凛とした顔立ちでお内裏様と並んで座っていた。その表情がなんともいえず好きだった。しかも今は手に入らない代物である。
その表情は、涙で滲んでぼやけていた。