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20日間のシンデレラ 第3話 黒魔術って信じる?

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メインタイトル 『20日間のシンデレラ』


〇体育館(回想)


  陸  「やっと……やっとあなたを見つけました。 もう駄目かと思ったけれど心には信じて

いました。 必ず会えると」

花 梨  「私も」
      
  陸  「でも……まだ名前を知りません……」

花 梨  「シンデレラです」

  陸  「シンデレラ……シンデレラ……シンデレラ! 世界で一番美しい名前だ。 ……お城に来てくれますね?」

ひざまずいたまま花梨の手を取る陸。

花 梨  「ええ……喜んで……」

その形のまま幕が下りる。

舞台からの光が急になくなり、体育館全体がわずかに残った光だけでほの暗くなる。

それと同時に盛大な拍手が体育館を包む。

いくつも並んでいる沢山のパイプ椅子。

全学年の生徒含め大勢の保護者達が同じように歓声をあげ、大きく拍手をしている。

舞台の一番上の方には、鮮やかに飾りつけされた、

(校内学芸会)

と書かれた文字。

端の方には縦長の白い紙に、

(5年4組 シンデレラ)

と書かれている。

鳴り止まない拍手。

中には目に涙を浮かべている保護者もいる。

しばらく経って再び幕が上がっていく。

舞台上に全員集合している5年4組の生徒達。

真ん中に主演の陸と花梨。

その周りを他の生徒が囲んでいる。

そしてゆっくりと全員同じタイミングで深々と一礼をする。

さらに大きくなる拍手、歓声。

観客側も舞台側もまさに一体となるような空気感。

いつになったら鳴り止むのだろうという体育館内になり響いている拍手の音。

そんな中、再び幕が下りて生徒の姿は見えなくなる。

観客側の盛り上がりもピークに達し、しばらく経ってようやくあたりが静かになる。

しかし完全に静かになるわけではなく、保護者や生徒達が感想を言い合って、まだざわざわとした感じは僅かに残っている。

暗闇の中、うっすらと認識できる観客の表情はとても生き生きとしていて満足している様子。


〇舞台裏(回想)


生徒一同 「お疲れーー」

その掛け声とともにわいわいと盛り上がる生徒達。

やっと緊張がとけた安堵感と無事に舞台をやり終えた達成感で、満面の笑みを浮かべている。

急に泣き崩れて夏美と抱きあう花梨。

花梨をささえる夏美。

陸の元に清水がやって来る。

お互い手を軽く握りコツンと当てる。

照れ臭そうにニコッと笑う陸と清水。

他の生徒もそれぞれの喜びを分かち合っている。

右手を握って大きく上に挙げる陸。

  陸  「5年4組は最強クラスだぁーー」

叫ぶように声を張り上げる陸。

その声の後、

生徒一同 「おーっ!」

と他の生徒も陸と同じように握った手を大きく上に挙げる。

ちらっと視線を横に向ける陸。

陸の方を真っ直ぐ見て、握った手を上に挙げている花梨。

表情はうっすら目に涙を浮かべながらも、満面の笑顔。

それを見て、なおも笑顔になる陸。


〇実家 陸の部屋(7月19日 現在)


急にベッドから起き上がる陸。

網戸にしている窓からオレンジの光が部屋に差し込んでいる。

外から聞こえるカラスの声。

その場からゆっくり立ち上がる陸。

倒れ掛かるようにどさっと勉強机の椅子に腰をかける。

ぼーっと柱に掛けてあるカレンダーを眺める陸。

二箇所の日付に赤いマジックで丸がうたれていて、その下にはそれぞれ文字が書かれている。

片方は、
      
(7月20日 校内学芸会)

もう一つは、

(7月23日 花梨、転校)

視線を机に戻し、引き出しからノートを取り出す。

ぱらっとノートを開く陸。

7月3日からその日の日記が書かれている。

7月6日の日記をまじまじと見ている陸。

ノートに書かれている7月6日の日記、

  陸(語り)「7月6日。 清水と喧嘩をして一日が経った。 正直、何事もなかったかのようにけろっとしてて、またいつものように馬鹿騒ぎができるんだと思っていた。 けど実際は違った。 改めて自分の考えの甘さと、してしまった事の重大さを身をもって知る事になる。 清水は完全に俺を無視した……まるで最初からそこに存在していないかのように……こちらから話しかけても聞こえてないふりをされ、今までのように前の席から後ろを振り返ってくだらない話を持ちかけてくる事もない。 ショックだった……まだ頭の中に残っている本当の思い出ではこんな時期に清水と喧嘩をする事なんてなかったし、何よりとっさに万引きを止めてしまった自分にも驚いた。 当時なら自分も同じような事をしていたはずだ……けど今の俺はやっぱりいけない事だと思う。 それは曲げられない。 ……清水は完全に俺を疑っている。 清水だけじゃない。 他の生徒もあの一件以来、俺を見る様子が何処かおかしいように思うんだ……」

日記を読むのに没頭している陸。 


〇体育館(回想 7月6日)


一人、舞台を遠めで見ている陸。

イダセン 「おーい、何してるんだ! 早く跳べー」

呼びかけられふと我に帰る陸。

目の前には直線にマットが敷かれていて、その先に踏み切り板、そして高々と六段積み重ねられた跳び箱が見える。

声の聞こえる方を見ると、陸を急かして腕を組んでいる赤いジャージ姿のイダセン。

その近くで体育座りをして様子を見ている生徒達。

再び跳び箱の方に視線を戻す陸。

大きく息を吸い込みタッと駆け出す。

ゆっくりと助走をつけ、距離が近づくにつれ速度を上げていく。

タイミングを合わせ、踏み切り板に足をつき、跳び箱には両手、そして大きく足を開いて体を前に押し上げる。

バーンと大きな音を立て陸の体が宙を舞う。

静かに着地をする陸。

満足そうにうんうんと頷いているイダセン。

退屈な表情の清水。

他の生徒達もどこか関心がないような感じ。

一息ついてみんなの元に、すたすたと戻っていく陸。
 
授業終了のチャイムが鳴る。

体育館の入り口のドアを開けて、次々と生徒が出て行く。

その後に続いて出て行こうとするイダセン。

ふと振り返り一人、取り残された陸を見る。

誰も陸に「一緒に帰ろう」と声をかける生徒はいない。

どこか心配したような声で、

イダセン 「……入り口、ちゃんと閉めとけよ」

とだけ言い、体育館を後にするイダセン。

軽く会釈をする陸。
     
大きな体育館に陸だけが、一人突っ立っている。

再び舞台の方に視線を向ける陸。

大きな黒い幕が掛かっている。

  陸(語り)「舞台を眺めていると色々と思い出してしまう…… 5年4組が初めて一丸となった瞬間。 本当に楽しかった俺の大切な思い出。 馬鹿で何のとりえもない俺が初めて、一生懸命に何かをやりとげようと思えたんだ。あの瞬間をもう一度味わいたいって大人になってからもずっと思っていたけど、あと二週間で再びそれが訪れようとしている。 それもこんな状況で……一世一代のイベント、校内学芸会が目前と迫っていた」


サブタイトル 『第3話 黒魔術って信じる?』


〇教室