お姉ちゃんとオトート
オトートが生まれた
ふすまのこちらで聞いていた
柔らかい陶器の人形
その口に沢庵一切れ入れたっけ
ぷくぷくのしりぺたに化膿ができた
医者はいきなりメスを突っ込んだ
赤ん坊とお姉ちゃんは絶叫し
母は医者に食ってかかった
呼ばれると「ハイッ」と屈託無し
猫の仔をくるりとした鉋屑にぶらさげる
どこでもついてきてうるさい
鉄条網をくぐるとき
案の定脚に突き刺した
ああ、もう、と家にひきずって帰った
新品の自転車にはじめての二人乗り
蛮行と怖い物知らず
畑に突っ込んだ
遊ぶことと歌うこと絵を描くこと
きょうだい喧嘩の日が続く
いじめられて涙を溜めている眼をみた
心が痛んだ、ごめん意気地なしのお姉ちゃんだった
とうとう背丈が追い越されて
けんか時代は終わる
オトートが大学に入ってから
道は別れたが思い出がつながっていた
お姉ちゃんは失敗しては泣きついていくのだった
オトートは立派な大人になったのだった
頼りの手をいつも期待できたのだった
同じ肚からの絆、無条件の支援
もうそれはない
父親はとうに死に母親は赤ん坊にもどった
いつか笑う日が来るさ、と人を励ましながら
自分は天に羽搏いた、そうであるように!
作品名:お姉ちゃんとオトート 作家名:木原東子