幽霊屋敷の少年は霞んで消えて
「んっ?ああ、なるほどそういうことね。アレね、ただのあてずっぽ」
なんですとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?
それで、当たるもんなのかい。
霞くんは悪戯っぽく笑うと、じっとわたしの目を覗き込んだ。
「その人の目を見れば、たいてい何考えてるのか分かるもんなんだよ」
……まあ、それはわたしも聞いたことあるけどさ。
しかし、それにしてもこの少年は何者なのだろうか。
多重人格者か……幽霊か……いや、多重人格者で幽霊なのか。
では、やはりここは正真正銘のお化け屋敷なのだろうか。
……噂は本当だったんだね。
でも、不思議と怖くはなかった。
それよりか、むしろ幽霊と友達になれて不思議な感じ。
考えてみれば、わたしは幽霊がいるなんて本気で信じてはいなかった。
ただ、話の題材として取り上げるために信じているフリをしていただけ。
それが、こうして本物と出会うことになるなんて。思い返してみれば、幽霊を信じたのは無邪気な少年時代以来かもしれない。
そんな、ガラにもない思考の旅を繰り広げるわたしは霞くんの声で再び現実世界……リアリティ・ワールドに連れ戻された。
「おじさん、いつまで突っ立ってるつもりなのさ。座ったら?」
霞くんが自分の目の前を指差しながら言った。
そこには、いつのまにか座布団が置かれている。
ありゃま、優しい。
じゃあ、お言葉に甘えて。
わたしは座布団の上に重い腰を下ろした。
さて……ここで、そろそろ本題を切り出してみようか。
わたしは、すぅと大きく息を吸って霞くんに言った。
恐る恐る……なるべく相手の機嫌をそこねないようにね。
「ねえ、霞くんは……その、何者なんだい?」
「どういう意味?」
霞くんが首をかしげる。
「だから……その……霞くんてさ、普通の人じゃ……ないよね」
わたしの言葉を聞いて、霞くんはまたあははっ、と笑う。
「何さ。おじさんまだ僕のこと幽霊だと思ってんの?バカバカしい」
「なら……さっきのケンタくんの言ったことはなんなのさ」
わたしが言った瞬間、霞くんの眉がピクリと動いた。
わたしはそれを見逃さない。
やはり、この質問は触れてほしくない部分に触れている……核心に迫っているということだ。
だから、やめるわけにはいかない。作家として、そして個人的な興味でやめるわけにはいかない。
霞くんは、わたしの質問に答えず、黙って口をつぐんでいる。
わたしが話を進めるしかないみたいだ。
「やっぱり、霞くんはもう死んでいるんだね」
しかし、そこで霞くんは口を開いた。
「違う」
彼は短くそう言った。
素っ気ないけど、どこか強い反論の意思が感じられる声。
本当のことを知られたくないがためについた嘘なのかもしれない。
でも、霞くんの声からは「絶対に違う」。そんな意思が感じ取れた。
「じゃあ、なんでケンタくんはあんなことを言ったのさ」
「……」
霞くんはしばらく黙っていたが、やがて観念したように口を開いた。
……コレを待ってたぜ。シャキーン。
「それは、ケンタがすでに死んでいるから」
あくまで、自分とは関係のない、他人のこととして扱っているようだ。
でも……その論法はおかしい。
だって、ケンタがすでに死んでいるなら、霞くんもすでに死んでいるはずなのだから。
それとも彼の言う「死んでいる」というのは精神世界的な意味でのことなのか。
でもさっき出てきてたよね?いや、もしかしたらあの時に……。
しかし、それにしても彼の言っていることは矛盾している。
とにかく、わたしは霞とケンタたちは一心同体の同一人物だとして、考えることにした。
「その論法はおかしいと思う」
わたしの言葉に霞くんは不満げに唇を噛みながら、黙ってわたしの言葉の続きを待った。
「だって、ケンタくんが死んでいるっていうなら霞くんもすでに死んでいるはずだよ。でも君はさっき、自分は違うと言った。じゃあ、つまりそれはどういうことなんだい」
「だから、それはさ……」
続けようとした霞くんをわたしは制す。
手を突き出してそれ以上言葉を続けるのを遮った。
……今のわたしってすごいドヤ顔してるんだろうな。
「おっと、ケンタは別の人格だからあくまで自分とは関係ないとでも、言うつもりかい。まあ君の言うことももっともだけれど、たとえ多重人格といえども使っている体は1つ。つまり君もケンタくんもレイカちゃんも結局は同一人物ということだ」
「……」
霞くんは何も言い返す言葉がないようだ。
わたしの推理は正しかった。
暮宮霞少年は多重人格者の幽霊。
すでに死亡している。
……チェックメイトだ。
作品名:幽霊屋敷の少年は霞んで消えて 作家名:逢坂愛発