ネクタイ猫
だからといって、猫になってしまうのと訳が違う。
それによく周囲を見てみると俺の家じゃない。
じゃ、一体ここはどこなんだ?
そう思ってぐるぐる頭を回していると上の方から優しい声が聞こえてきた。
「ほらほら、猫ちゃん。そんなにキョロキョロしていると目が回っちゃうぞ?」
「え?!」
この声は、俺の片思いの彼女の声じゃないか?
なんて思っていたら、抱き上げられ彼女の顔と同じ高さになった。
「送別会の帰り、家の前で私にニャーンと言ってすり寄ってきたけど、君の家はどこなのかなぁ?飼い主さんが心配しているんじゃないの?よく思い出してね。それまでここにいていいから」
あぁ、彼女がいつもつけている香水の良い匂いがする。
ヒゲがヒクヒクとなって「クシュン」とくしゃみが出てしまった。
人間の時はこの香りがしてくると、体の中に熱いものが走ってうずうずしていたのに。
「あらあら、香水は苦手かな?香水といってもほんの少ししか付けてないんだけどなぁ。と言っても、ねこちゃんにはわからないか」
そう言って、君はクスクス笑っていた。
「あ、そろそろ会社に行く時間だわ。猫ちゃん、帰ってきたら飼い主さんを探してあげるから、今日はここでお留守番していてね。じゃ、行ってきますね」
頭を優しく撫でてから、出かけていった。