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読み違え&萌え心を揺さぶるシリィズ

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Sonnet 18〜夏の日


** 本作は『神の園辺』に掲載していました **

 淋しい設定の『Pansmusik』より、物語においてとりわけ重要な地位を占めているシェイクスピアの『Sonnet 18』(邦題『夏の日』)を載せるべきだろう。

     きみを夏の日にくらべても
     きみはもっと美しくもっとおだやかだ
     はげしい風は五月のいとしい蕾をふるわせ
     また夏の季節はあまりにも短い命

     時に天の目はあまりにも暑く照りつけ
     その黄金の顔色は幾度も暗くなる
     美しいものもいつかは衰える
     偶然か自然の成り行きで美は刈り取られる

     だが きみの永遠の夏は色あせることはない
     きみが持っている美はなくなることはない
     死もその影にきみが迷いこんだと自慢はできない
     きみは生命の系譜の中で永遠と合体するからだ

     人間が呼吸できるかぎり その目が見えるかぎり
     この一篇の詩は生き残り きみに生命を与えつづける

 解釈の多様性が翻訳の醍醐味とは『Mignon, Heissmichnicht…』で語ったことだが、今回もその例にもれず。私が初めてこの詩と出会ったのは、以下の訳によるものだった。

     君を夏の一日に喩へようか。
     君は更に美しくて、更に優しい。
     心ない風は五月の蕾を散らし、
     又、夏の期限が余りにも短いのを何とすればいいのか。

     太陽の熱気は時には堪へ難くて、
     その黄金の面を遮る雲もある。
     そしてどんなに美しいものもいつも美しくはなくて、
     偶然の出来事や自然の変化に傷つけられる。

     併し君の夏が過ぎることはなくて、
     君の美しさが褪せることもない。
     この数行によって君は永遠に生きて、
     死はその暗い世界を君がさ迷ってゐると得意げに言ふことは出来ない。

     人間が地上にあって盲にならない間、
     この数行は読まれて、君に命を与へる。

 異なる訳者による同一原作は、つまるところ個人の好みになってしまうが、古風な雰囲気ただよう後者を本編では採らせていただいた。おそらくは、訳された時代もかなり旧(ふる)かろうと思う。それは最終段落の「盲」という訳語に表れている。現代では差別用語にあたるとして使用禁止表現に属するからだ。
 英語圏、それもシェイクスピアほどの文豪になると訳書もかなりの数にのぼるため、ネット等でしつこく探せばさらに好みの訳に出会えるのかもしれないが、ドイツ詩に費やすほどの根性と情熱を、イギリス詩には持ちあわせていない私であった。

※作中に掲載のシェイクスピアの詩は関口篤氏、吉田健一氏、両先生方の翻訳によるもの。