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読み違え&萌え心を揺さぶるシリィズ

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読み違えドイツ詩妄想仕様・その1〜Mignon. Heiss mich nicht…


** 本作は『神の園辺』に掲載していました **

 まずは、ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテへの陳謝から始めることとする。
 貴殿の珠玉の作品を、一個人の妄想により独断解釈してしまった旨、本当に申しわけない…――。
 氏の詩集を読んでいた時のこと。或る一篇に強烈に心を奪われ、アドレナリン分泌量が限界を超えた。
 これは…もしや…アレでは? いや…まさか…そんな。ゲーテがアレをテーマにする筈はない。でも…これは…絶対、アレ。
 その頃、自分が書いてた小説がまたアレだったものだから、その影響も多分にあるとはいえ、流石にマズいだろうて、マズすぎる。私の脳はもう、アレの作品としてしか受けつけない。きっと一生、アレのまま。
 アレ――すなわち《少年の少年への秘めた想い》。

      語れとはのたもうな、黙(もだ)せとこそは告げたまえ
      わが秘めごとは わがつとめなれば。
      わが心の限り、君にこそ示さん願いは切なれど、
      運命の許さぬ悲しさよ。

      めぐる日の時をたがえず登れば、暗き夜は
      追い払われ、白日とはなる。
      心なき固き岩も胸を開き、
      深く隠れたる泉もて地をうるおすものを。

      人みな、友の腕の中に憩いを求め、
      胸の嘆きを訴えなぐさめらるるを、
      われひとり誓いしことの故にくちびるかたく、
      神をおきて、このくちびる、ひらくよしもなし

 うむ。再読しても、やはりアレな作品。黙(もだ)すしかない恋というのは辛いものだね、少年。
 これは君のための詩だ、エーベル。完璧じゃないか…と、長らく(勝手に)思ってきた。
 その後、別訳者による『ゲーテ詩集』を手に入れ、速攻で同じ作品を探したところ、冒頭から脳がフリーズ状態に陥った。

      語れといわずに あたしに黙れといってください
      秘密があたしのつとめですから
      胸の奥をすっかりお見せしたいのですが
      あたしの運命がゆるしません
 
      (以下省略)

 え? 「あたし」?
 何と、主語が全て「あたし」になっていた。これじゃ、どう読んでも女性の吐露。少年の“し”の字どころか、アドレナリンの源泉さえ見当たらなくなってしまったのである。慌てて調べたところ、女性による男性への独白を謳った作品であることが判明。よって、冒頭の謝罪に至った次第。
 こうした解釈の多様性が翻訳の醍醐味であり、一度足を突っ込むとはまってしまう所以とはいえ…畏るべしは翻訳。そして、恥ずべきは妄想&おバカな自分。
 しかし、文学を鑑賞する際、独自視点のおしつけ、ひいては妄想の舵取りが制御不能になる読者というのは、私だけではないらしい。長野まゆみさんのエッセイに、思わず、すがりついてしまった一文がある。
 以下は、長野女史が或る日本人歌人の作品に対し、所感を述べられた後で語った部分からの抜粋。

「(中略)作者が最も注意深くとりのぞいたはずの叙情性を、私のような読者は妄想的視点で見つけだしてしまう。(中略)作者にとっては迷惑なことかもしれない。独り歩きをした作品が、後に少年の叙情性で読まれる羽目になろうとは想像もしなかっただろう。」

 ――I say ditto to you.

※ 作中に掲載のゲーテの詩は高橋健二氏、井上正蔵氏、両先生方の翻訳によるもの。