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恋色季節

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「ただいま…」

薄暗い家。

学校から帰ってきたが、やはり人影はない―。

父はあたしが小学生にあがって離婚し、居ない。

母はやさぐれており、男を取っ替え引っ替えで家にいることなんて殆んどない。

不在の母は居ないも同然。

帰ってきた形跡もなく、あたしはひとり帰宅し自分で作った夕食を啄む。

これが二宮家の日常。

しかしやはり居ないことを分かっていても帰宅する勇気がいる。

少し安心し、普段はない机においてあった置き手紙に目を通すとそこには拒絶の文字が連ねられていた。

【この家は売ったから友達の所にでも行って暮らしなさい。
 私は出て行きます。
 さようなら。
 P.S
 私の目の前に現れないで】

涙なんて出ない。

悲しさなんて、感じない―…。

そこまであたしの心は、鈍感になってしまったのだろうか…。

あたしは無心で荷物を纏める。

家を出ていく前、部屋を幾分見渡し、重いドアを閉めた。

なぜか無性に、理央に会いたくなった。

その時初めて、感情が温かく線をひき、頬を伝った。

理央に、会いたいな

「心優…。」

「紗希っちょ?!どげんしたと?!」

「どこの人だよ」

そう突っ込むたしにいつもは反応する心優だが、今日は目を見開いたまま。

理由は多分…

「ど、どうしたのその格好!!」

「藍沢家の家族になってもいいですか?」

そういったあたしの身なりは大きなバックを抱えている状態。

その言葉を聞いたとたん、心優は一瞬とても悲痛そうな顔をした。

しかしすぐ笑顔になってリビングに連行された。

「やあ紗希ちゃん。いらっしゃい」

「まぁ、紗希ちゃん!記憶喪失は治ったんだってね?」

「お蔭様です。本当に有難うございました!」

そう言うと心優の両親は心なしか涙ぐんだように見えた。

「紗希ちゃん。私は紗希ちゃんなら大歓迎よ!ねぇ、アナタ」

「おう。俺も歓迎するよ」

どうやらこの身なりで二人は察してくれたようだ。

「じゃああちしの部屋にもいっこ布団いるだすな」

「だからどこの人?」

「うふふ、そうね!さっそく用意しなくちゃ!」

「はっはっは!賑やかになるな!」

みんな笑顔で迎え入れてくれた。

とても、とても、温かい家族―…。

あたしの、昔あこがれた、家族の姿―…。

作品名:恋色季節 作家名:紗智