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恋色季節

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―ガラッ…

「あ!理央っ」

扉が開き、まず視界を入ったのは

いま、一番安心できる人。

「はよ。ファンタ飲む?」

「奢りなら…」

「当たり前。俺そんなにケチに見える?」

そういってファンタを差し出す君。

「じゃあ貰うねっ」

こんなものを貰ってご機嫌になるあたし。

いや、

理央にもらったファンタだから嬉しくなった。

外からは暑さを煽るせみの合唱が聞こえてくる。

あれからもう数週間たった。

しかし、退院できる気配は全くもってない。

でもそれを理央や心優に訊くと

二人はとても悲痛な顔をするから

やっぱりいわないでおく。

「俺もファンタ飲みたい」

突拍子もない理央の希望。

「えっ?!自分の買わなかったの?!」

「それ飲むつもりだったから」

そんなこと言われてももう飲んじゃったし…

「ねぇ紗希」

「んー?」

突如、視界が覆われた。

原因は

理央の顔。

「ゴチソウサマ」

「…」

ニヤリとイタズラに笑う。

固まったあたしを残して

理央は部活へと戻っていった。

ひとり残された病室。

まだ唇に微かな余韻が残っている。

覚えがある

この感覚―…。

ズキッ―…

また頭に痛みが走った。

外は快晴。

鳥は楽しそうに

自由に

飛んでいる。

青い空が眩しくて

なんだか怖くなった。

自分は

光に照らされることを

怖がっている―。

それでも踏み出さなきゃ

光を恐れては

前に進めない気がした。

木々がざわめく。

緑がゆれる。

外に

出たい。

「屋上…行ってみようかな」

重い腰をベッドから上げ

屋上へと続く道をひとり歩き出した。

作品名:恋色季節 作家名:紗智