声
「わたしそんなこと言ってないし」
「言ったじゃないか」
「言ってない。だいいちあんた、二階にいたんでしょ。何で気づかないのよ。こんなに荒らされてるのに」
「布団をあっためてたんだよ」
「寝てたのね」
「暖めてたんだ」
「もう信じられない。大のおとなが家にいて泥棒に入られるなんて」
何度も目をつぶったり、泣くような仕草をしたあと、家内は息子のコップを取り上げると一気に飲み干した。それから自分に向き直って叫んだ。
「あんた、いったい何してたの、昼間っから。あんたいったい何者なの」
夫として、家内の気持ちはよくわかる。
だけど、誰に何を聞かれてもおれは断言する。あの声は、家内以外の何者でもなかったと断言する。