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てっしゅう
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「哀の川」 第十九章 接近

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第十九章 接近


学校内では純一と由佳は普通に先輩後輩として接していた。斉藤さん、と早見くんと言ったようにだ。今日は部活で夏季合宿の日取りを決めることになっていた。宿泊先は伝統的に続いている同じ場所だったから、去年に今年の利用を申し出ていた。宿先から日程を連絡して欲しいと担任の先生に電話があったので、早急に決めているところであった。

「部長、八月の5,6,7にしようと思いますが、どうでしょうか?」三年生の渉外担当が聞いてきた。
「はい、それでいいと思います。月火水ですね。皆さんどうでしょうか?」反対するものはいなかった。すぐに決まった。帰りに純一は由佳を誘っていつものファミレスに入った。

「純ちゃん、合宿楽しみです。初めて一緒に生活できるんですよね?」
「ああ、まあ皆一緒だけどな。でもなあ男はボク一人なんだよなあ・・・先生も女性だろう・・・もてすぎて怖いなあ」
「先輩!そんな事言って・・・本気ですか?」
「おいおい、怒るなよ。冗談に決まっているだろう」
「解っていますよ、それぐらい。気にする事言わないで下さいね、これからは・・・」
「悪かったね。そうそう、由佳に話があったんだよ。今度の合宿が終わったら、皆に内緒で二人だけでどこかへ行かないか?家には金曜日までと言っておけば、そのままついでに行けるし・・・バイトのお金があるから、僕が費用は払うよ。ダメかい?まだ早い?」
「純ちゃん・・・本当ですか?私を誘ってくれているのよね?嫌な訳無いじゃないですか。私のこと好きになってくれたんですよね?」
「良かった・・・断られたらどうしようかと思っていたから。由佳のこと大切に考えているよ。これからは今までより仲良くなりたいよ」
「ほんと!嬉しい・・・ずっと前から好きだったから、願いが叶ったわ。純ちゃんの言う通りで構わないから。何処へ連れて行ってくれるの?」
「うん、合宿が菅平だろう・・・みんなと東京まで帰ってくるから、その足で、伊豆へ行こう。昔行った所でログハウスがあるから貸切で。ボクだとダメだから、伯母さんに頼んで予約入れてもらうから」
「じゃあ、自炊するのね。なんだか奥さんになった気分!おいしい料理作らなきゃね。考えておきますね。楽しみ!先輩が・・・大好きです」
「こんなところで言うなよ、信憑性がないよ、ハハハ・・・」
「ハハハ・・・そうですよね」

杏子は一人になった部屋で過ごすことにようやく慣れてきた。水曜日の定休日には直樹の家に行き、晩ご飯を純一たちと一緒に食べるようにしていた。今年も家族全員で旅行に行こうと話が出た。お盆は混むから休みをずらして純一が夏休みの間にしようと話しあっていた。

「裕子さんと美津夫さんは大丈夫かしら・・・」
「聞いてみないとね。多分都合はつくと思うよ」麻子の言葉に直樹は返事した。杏子が出来れば水曜日と木曜日にして欲しいと言ったので、その日程で21日〜22日にしようと決まった。遅くなってから裕子と美津夫が食事にやってきた。どちらもこの日取りで大丈夫と返事した。食事が終わって、杏子が帰り、純一は裕子に話しがあるからといって裕子の部屋に行った。自分と由佳の旅行で前に行ったところのログハウスを予約して欲しいと頼むためだ。裕子はニコニコしながら、

「いいわよ、予約しておいてあげる。そう・・・彼女が出来たのね。純一が好きになった女の子ってどんな人なんだろう・・・気になるわ、フフフ・・・」
「裕子ねえさん、ありがとう、恩に着るよ。ママとパパには内緒でね、お願いします」
「解っているわよ!じゃあ、杏子さんとは別れたのね?」
「えっ?どう言うことですか?」
「隠さなくてもいいのよ、知っていたから。杏子さんがあなたの事好きになっていたことぐらい解るわよ。きっと悲しんでいるのでしょうね、仕方ないって言えばそうだけど・・・伯母だものね、続けられないことなんだから。まあ、良かったのよ、純一にとっては」
「・・・はい、そう考えるようにしています。裕子お姉さんはなにかと鋭いですね」
「そうよ、昔から女の感って奴が働くのよ。直樹さんも気をつけたほうがいいかもよ、杏子さんきっとあなたと直樹さんをダブらせていたと思うから・・・」
「どういうことですか?杏ちゃんはパパがまだ好きって言うこと?なの」
「さて、どうだろう。そこまでではなくても、麻子には嫉妬しているから、そのことがどうでるかよね。あなたに言っても仕方が無いことだけど、少し気にしておいてね」
「うん、解ったよ。じゃあ、予約の方お願いしますね」

純一はやった!と思い、早速由佳に電話して報告した。由佳はログハウスでのご飯を考えるようになった。料理の本を見ながらあれこれと研究している日が続いた。

自分の部屋に戻る前にまだ居間にいる母親に、合宿の予定を話した。

「ママ、ESSのクラブ合宿が5日から9日まで菅平であるから、そのつもりでいてね。お金は部費で交通費以外は賄うようになっているから、電車賃だけ頂戴ね」
「ええ、解ったわ。ねえ、純一、何かあるといけないから、パパみたいに携帯持つ?ママも欲しいから一緒に見に行こうか?」
「えっ?携帯電話・・・そりゃあったら便利だけど、贅沢じゃない?」
「そうだけど・・・持っていればいざと言うときに役立つと思うのね。まだ関東とか関西のような大都市しか電波が入らないようだけど、これからきっとどこでも話せるようになるから、ママは買うわよ」
「じゃあ、旅行のときだけママが買ったのを貸してよ!それ以外には必要に感じないから」
「うん、解った、そうしましょう」

純一は両親が何か連絡したい時に、携帯があれば学校に問い合わせしないだろうことも、由佳との旅行がばれない安心に繋がると思った。

由佳は母親に正直に話した。父親が転勤でいないから、特に母親には、心配かけたくないと常に思っていたからである。母親の潤子は少しためらったが、純一の性格のよさと由佳が好きであることで二人の旅行を承知した。母親は常に娘の味方である。そして、女として先輩であるから、その部分でも理解者になってくれるのだ。由佳は母親を心から愛していたし、友達のような感覚も併せ持っていた。兄弟が居ない分、その関係は強く持ち合わせていた。

潤子は相変わらずカラオケ喫茶「好子」に歌いに通っていた。杏子とも仲良くなってきて、食事をしたり、時々店を手伝ったりしていた。当然娘のことは話題になるから、杏子には伝わっている、純一と交際していることがだ。


「潤子さん、由佳ちゃんはいい子だから、純一も安心して付き合えるわよね?二人がずっと仲良く続いて、結婚出来たら最高ね」
「杏子さん、そこまでは考えていないわよ二人とも・・・でも今はお互いに最高の相手だと感じているようだから、私たちも応援してあげましょうよ」
「そうね、そうしましょう。そろそろ由佳ちゃんにも避妊を教えないといけないですよ、潤子さん?」
「・・・そうだね。今時は早いから・・・そうするわ、ありがとう」