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一期一会 ―あんじ―

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(体験者:伝七(でんしち))





「さっみいなぁ……」

 オレは寮の裏庭を歩いてた。しかし今さらながらそれは失敗だったと後悔してる。
 今夜はどうも寝付けなくて、かといって布団にもぐって眠くなるのを辛抱強く待つ気も、部屋で音楽を聞いたりマンガを読む気にもなれなかった。勉強なんて論外だ。だからいっちょ夜の散歩に出たんだが、やっぱり部屋の中で筋トレしていた方がマシだったかもしれない。
 なんだかさっきから後悔しかしてないな、やっぱ戻ろう。部屋に向けて方向転換したとき、ふと、何か聞こえた気がして転換する途中で立ち止まる。

「……観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時……」

 そのかすかな声はザアッと風が木木を揺らす前に、オレの耳にしっかりと入ってきた。

「……空即是色……想行識、亦復……」

 風とか草の音にちょくちょく遮られながらも、かすかに聞こえてくるその低い声は聞き覚えのある言葉を唱えてて、妙ななつかしさを感じさせる。
 オレはたちまちその声の主が気になった。どうしても一目確かめたくなったから、またくるりと歩く方向を変えることにした。

作品名:一期一会 ―あんじ― 作家名:狂言巡