20日間のシンデレラ 第2話 お前は一体、誰なんだよ
従業員 「大人しくしろ!」
力ずくで清水を引っ張っていく従業員。
清水、大声で陸に向って、
清 水 「おい、陸! 助けてくれよ! 陸ーーーーっ!!!!」
黙って下を向き視線を清水から逸らす陸。
それを見て生気を失ったような表情の清水。
抜け殻のようにズルズルと従業員に連れられていく。
おもちゃコーナーから次第に小さくなっていく三人。
何事かとその様子を見ていた見物人達もしばらく経ってそれぞれの場所へと離れていく。
天井から聞こえてくる愉快な有線。
お客と店員との会話のやりとり。
おもちゃ売り場の地面に、さっきまで陸が使っていたハイパーヨーヨーが無造作に転がっている。
〇教室(翌日)
次々と生徒が登校してきて騒がしくなっていく教室。
一人、窓の外を眺めている陸。
ぎらぎらと太陽の光が差し込み、思わず目をそむける陸。
隣から物音が聞こえて、
花 梨 「陸、おっはよー今日は遅刻しなかったのだーすごいでしょ?」
赤いランドセルを下ろして、にこにこしながら陸に声をかける花梨。
横を向いて、
陸 「あぁ、おはよう……」
どこか元気がないような陸の挨拶。
そして再び窓の外を眺めている。
不思議そうな顔で陸を見ながらも、机に教科書を入れていく花梨。
急に扉がどーんっと大きな音を立てて開く。
その音に驚く生徒達。
清水が勢いよく入ってくる。
真剣な表情の清水。
さっきまで騒がしかった教室も、みんな清水のいつもと違う雰囲気に勘付いたのか恐ろしいほど急に静まり返る。
固まってしゃべっていた男子生徒も、清水が通ると道を開けるように端へと移動する。
そのまま一直線に陸の机にやってくる清水。
なおも窓の外を眺めている陸。
陸の机を大きく叩く清水。
清水の方を見る陸。
清 水 「何で昨日、俺を止めた? 何で助けてくれなかったんだ?」
少し間を置いて、
陸 「悪い事だからだ」
小さくそう答える陸。
突然、鬼の形相のような怒り狂った表情になり、
清 水 「優等生ぶってんじゃねーぞ、こらあっ!!」
声を荒げ、座っている陸の顔面を殴る清水。
勢いよく吹き飛ばされ、椅子は倒れ、たまたま誰も座っていなかった後ろの机に大きく倒れ込んでいく陸。
一瞬の出来事に教室中が凍りつく。
陸 「……てめぇ、何しやがるっ!!」
すぐさま起き上がり、自分の机を蹴飛ばし清水に飛び掛っていく陸。
清水のむなぐらを掴み頭突きを顔面に繰り出す。
ひるんだ勢いで清水もまた後ろへと倒れていく。
椅子も机もごちゃごちゃになり、危険を感じた周りの生徒は花梨も含め、瞬間的に少し後ろに非難している。
再び起き上がり陸に向って行こうとしている清水。
鼻からは生々しく鼻血が垂れている。
大きな声をあげて再び向っていく二人。
瞬間的に清水を前田が陸を米川が、必死にその体を抑える。
清 水 「離せっ前田! こんな奴、陸でも何でもねぇ!!」
前 田 「落ち着けって清水!」
対照的にその清水の言葉を聞いて自然とクールダウンしていく陸。
陸の体を抑えながら、
米 川 「陸……」
お互いの真ん中に割って入る花梨。
花 梨 「もうやめて! あんた達、親友なんでしょ!!」
花梨の悲痛な叫びが教室に響く。
その瞬間、イダセンが教室に入ってくる。
夏美がイダセンの方を訴えるような目で見ながら、
夏 美 「先生……」
何も言わずにそのまま陸と清水の元にやってくるイダセン。
冷静に周りを見渡し、その次に陸と清水を交互に見る。
体を抑えられながらお互い視線を下に向けている二人。
しばらく経って、
イダセン 「何があった?」
沈黙の中、イダセンの声がゆっくりと生徒の耳に入っていく。
下を向いたまま答えようとしない陸と清水。
もう一度、二人の顔を交互に見るイダセン。
さっきとは少し違った声色で、
イダセン 「まだやるか?」
沈黙。
陸 「いいえ」
ゆっくりと顔を上げイダセンの方を見ながら、そう答える陸。
イダセン 「清水は?」
何も言わず首を横に振る清水。
ふーっと一息つき、
イダセン 「とりあえずお前ら二人、保健室にいくぞ」
そう言い、入り口のドアの方へ向うイダセン。
清水を抑える前田の手を振りほどき、陸を睨み付けながら、
清 水 「お前は一体、誰なんだよ」
そう吐き捨てるとそそくさとイダセンの後に続いていく清水。
真剣な顔をしてなかなか動こうとしない陸。
荒れた教室を元通りにしようと動き出していく生徒達。
米川も陸の体を離す。
花梨も机を片付けている。
生徒が次々に動き出す中、ただ一人突っ立ったままの陸。
窓から蝉の鳴き声が勢いよく聞こえている。
陸(語り)「7月5日。 この日、俺は大切な親友を失った……」
――つづく――
――第2話 「お前は一体、誰なんだよ」 完――
作品名:20日間のシンデレラ 第2話 お前は一体、誰なんだよ 作家名:雛森 奏