20日間のシンデレラ 第2話 お前は一体、誰なんだよ
メインタイトル 『20日間のシンデレラ』
〇実家 洗面所
洗濯かごに無造作に放りこまれた小学校の制服。
土や泥がついてひどく汚れている。
〇実家 台所
夕飯の仕度をせっせとしている母。
コンロの火をかちっと点けて、
母 「陸ーーーそろそろできるわよー下りてらっしゃい」
〇実家 陸の部屋
陸 「今、勉強してるからもう少し!」
扉から顔だけを出してそう返事する陸。
すぐさま自分の机に戻り、文字をノートに書いていく。
陸(語り)「今日から日記をつけていく事にした。 あまりにも今日の一日が衝撃的だった為、もう一つは自分でもよくわからないけれど忘れたくない……自然とそう思ったからだ」
書き終わるとすっと立ち上がり、そそくさと駆け足で部屋を後にする陸。
窓から静かな風が吹き、吊るしてあった風鈴がちりんと揺れる。
開かれたノートに書かれた文字。
(7月3日……)
〇教室(今日一日の回想)
前 田 「昨日、僕は何も悪いことをしていないのに、いきなり出雲君が後ろからカンチョーをしてきました。 とても悲しかったです。 謝って下さい」
前の席から陸の方を、涙目になりながら睨み付けている前田。
急な事で驚く陸。
難しい顔をしているイダセン。
イダセン 「出雲、それは本当か?」
椅子を引いて勢いよく立ち上がる陸。
陸 「ちょっと待ってくれよ、俺そんな事してねーって。 それに昨日なんか学校に行ってねーし、ずっと家で黒魔……」
あっとなり話すのを途中でやめる陸。
生徒が一斉に陸の方に注目する。
イダセン 「何を言ってるんだ、出雲。 昨日は朝から博物館へ遠足だっただろ。 お前もちゃんと来てたじゃないか。 変な言い訳をするんじゃない」
陸 「え……そうだっけ?」
うーんと腕を組んで考え事をしている陸。
しばらくして、はっと何かに気付く。
陸 「(あ、そうか……俺は今日この世界に来たから、昨日やその前に起こった出来事は全部、過去の本当の俺がした事なんだ……)」
一番、前の席の前田に向かって、
陸 「てか前田、昨日の事をいちいち今日の終わりの会で言ってんじゃねーよ」
前 田 「何で陸が怒るんだよ、昨日は遠足だったんだから仕方ないじゃないか」
必死に反論する前田。
イダセン 「まぁ、落ち着け出雲。 前田の言い分も分かる。 よし、じゃあ昨日の遠足で嬉しかった事や悲しかった事がある者は手を挙げなさい」
二人の手が挙がる。
生徒を指名して意見を聞いていくイダセン。
米 川 「僕も昨日、出雲君に後ろからランドセルの鍵を開けられました。 それに気付かなくて少し前に屈んだ時、中身が全部落ちてしまいました。 とても悲しかったです……」
恵 子 「私も博物館の中をコロッケを食べながら歩いていたら、走っていた出雲にぶつかられて地面に落としてしまいました。 コロッケ好きに対する冒涜です。 こっくりさんを召喚して呪い殺してやろうかと思いました。 あ、とても悲しかったです……」
陸 「……」
呆然と突っ立っている陸。
ふと横を見ると花梨が呆れた様な目で、じーっとこちらを見ている。
苦笑いの陸。
小声で前の席の清水に声をかける。
陸 「おい、清水! お前も何とか言ってくれよ」
無言で急に席を立ち上がる清水。
陸 「清水……」
清水の後ろ姿。
変なオーラを放っている。
急に大きな声で半べそをかきながら、
清 水 「先生! 昨日、夏美のスカートを覗こうとしたのは俺じゃありません。 後ろから陸に蹴り飛ばされてこけただけなんです。 夏美ー俺は無実だぁーっ、ちっくしょーとても悲しかったですーっ!(悲痛な叫びで)」
ふんっと怒ってそっぽを向いている夏美。
壊れている清水を見て、
陸 「清水……お前もか……」
頭を抱える陸。
前田 米川 恵子 清水 「(一斉に)謝ってください!」
イダセン 「……だ、そうだが」
犯罪者のように視線を浴びせられている陸。
陸 「(俺はなんで責められているんだ……こんな理不尽な話があってたまるもんか。 昨日、
はただ必死で黒魔術の研究をしていただけなんだ。 カンチョーもしてないし、ランドセルの鍵も開けていない。 走りながらぶつかった事もなければ、後ろから蹴り飛ばす事なんてある訳ない。 責められる理由なんて一つもないんだ。 そうさ第一、俺はもう大人だ。 こんな小学生、相手にどうして頭を下げなけりゃいけない。 謝ってたまるもんか……謝って……)」
静かな空気の教室。
みんな陸の返事を待っている様子。
陸に冷たい視線が突き刺さる。
それを感じながら頭をかきむしる陸。
肩を撫で下ろしふーっと溜め息をつく。
教室に響くような大きな声で、
陸 「ごめんなさいっ!」
陸(語り)「小学生らしくごめんなさいの『い』の部分を嫌味ったらしく発音する事、それがこの世界でのささやかな抵抗だった」
サブタイトル 『第2話 お前は一体、誰なんだよ』
〇3F 廊下
静かな廊下。
窓の向こうには中学校のグラウンドが見える。
手洗い場からポタポタと水がつたう音。
(水を大切に)
と書いている文字と手の洗い方の張り紙が張ってある。
天井からぶら下がるようについている時計。
針は16時20分を指している。
教室から聞こえてくる声。
生徒 「先生さようなら、みなさんさようなら!」
がらっと扉が開いて生徒達が勢いよく飛び出してくる。
男子生徒 「一番、最後はウンコマーン!」
わーっと騒ぎながら男子生徒達が走り抜けていく。
(廊下は走らない)
と書かれたポスターがはがれそうになっている。
生徒が走っていく風圧でひらひらと揺れている。
途中で女子生徒とぶつかりそうになる男子生徒。
女子生徒 「ちょっと、危ないじゃないのよ!」
怒っている女子生徒。
そのまま走って、後ろを振り返りながら、
男子生徒 「うっせーブース!」
けらけら笑いながら階段の手すりにまたがり勢いよく下に滑り降りていく。
少し遅れて教室から出てくる陸。
陸 「(ふーやっと終わった)」
とぼとぼと廊下を歩く陸。
次々と違う教室から生徒が出てきて廊下が騒がしくなる。
陸 「(しかし、何なんだ。 この周りのテンションの高さは。 まるでついていけん……小学生とはこんなにも自由なのか。 どうせすぐに慣れて他の生徒と同じような感覚でいれるかもしれないと思っていたのは実に安易な考えだ。 とりあえず花梨が転校するあの日まで……それまで俺は周りに怪しまれないよう必死で小学校五年生を演じきるしかないな……)」
生徒達の間をすり抜けて教室を後にする陸。
角にあるトイレを右折して階段に向かう。
ランドセルとランドセルがぶつかりそうになる。
耳に入ってくる生徒の声。
生徒A 「なあ、頼む一生のお願い! ブルーアイズ交換してくれってー」
〇実家 洗面所
洗濯かごに無造作に放りこまれた小学校の制服。
土や泥がついてひどく汚れている。
〇実家 台所
夕飯の仕度をせっせとしている母。
コンロの火をかちっと点けて、
母 「陸ーーーそろそろできるわよー下りてらっしゃい」
〇実家 陸の部屋
陸 「今、勉強してるからもう少し!」
扉から顔だけを出してそう返事する陸。
すぐさま自分の机に戻り、文字をノートに書いていく。
陸(語り)「今日から日記をつけていく事にした。 あまりにも今日の一日が衝撃的だった為、もう一つは自分でもよくわからないけれど忘れたくない……自然とそう思ったからだ」
書き終わるとすっと立ち上がり、そそくさと駆け足で部屋を後にする陸。
窓から静かな風が吹き、吊るしてあった風鈴がちりんと揺れる。
開かれたノートに書かれた文字。
(7月3日……)
〇教室(今日一日の回想)
前 田 「昨日、僕は何も悪いことをしていないのに、いきなり出雲君が後ろからカンチョーをしてきました。 とても悲しかったです。 謝って下さい」
前の席から陸の方を、涙目になりながら睨み付けている前田。
急な事で驚く陸。
難しい顔をしているイダセン。
イダセン 「出雲、それは本当か?」
椅子を引いて勢いよく立ち上がる陸。
陸 「ちょっと待ってくれよ、俺そんな事してねーって。 それに昨日なんか学校に行ってねーし、ずっと家で黒魔……」
あっとなり話すのを途中でやめる陸。
生徒が一斉に陸の方に注目する。
イダセン 「何を言ってるんだ、出雲。 昨日は朝から博物館へ遠足だっただろ。 お前もちゃんと来てたじゃないか。 変な言い訳をするんじゃない」
陸 「え……そうだっけ?」
うーんと腕を組んで考え事をしている陸。
しばらくして、はっと何かに気付く。
陸 「(あ、そうか……俺は今日この世界に来たから、昨日やその前に起こった出来事は全部、過去の本当の俺がした事なんだ……)」
一番、前の席の前田に向かって、
陸 「てか前田、昨日の事をいちいち今日の終わりの会で言ってんじゃねーよ」
前 田 「何で陸が怒るんだよ、昨日は遠足だったんだから仕方ないじゃないか」
必死に反論する前田。
イダセン 「まぁ、落ち着け出雲。 前田の言い分も分かる。 よし、じゃあ昨日の遠足で嬉しかった事や悲しかった事がある者は手を挙げなさい」
二人の手が挙がる。
生徒を指名して意見を聞いていくイダセン。
米 川 「僕も昨日、出雲君に後ろからランドセルの鍵を開けられました。 それに気付かなくて少し前に屈んだ時、中身が全部落ちてしまいました。 とても悲しかったです……」
恵 子 「私も博物館の中をコロッケを食べながら歩いていたら、走っていた出雲にぶつかられて地面に落としてしまいました。 コロッケ好きに対する冒涜です。 こっくりさんを召喚して呪い殺してやろうかと思いました。 あ、とても悲しかったです……」
陸 「……」
呆然と突っ立っている陸。
ふと横を見ると花梨が呆れた様な目で、じーっとこちらを見ている。
苦笑いの陸。
小声で前の席の清水に声をかける。
陸 「おい、清水! お前も何とか言ってくれよ」
無言で急に席を立ち上がる清水。
陸 「清水……」
清水の後ろ姿。
変なオーラを放っている。
急に大きな声で半べそをかきながら、
清 水 「先生! 昨日、夏美のスカートを覗こうとしたのは俺じゃありません。 後ろから陸に蹴り飛ばされてこけただけなんです。 夏美ー俺は無実だぁーっ、ちっくしょーとても悲しかったですーっ!(悲痛な叫びで)」
ふんっと怒ってそっぽを向いている夏美。
壊れている清水を見て、
陸 「清水……お前もか……」
頭を抱える陸。
前田 米川 恵子 清水 「(一斉に)謝ってください!」
イダセン 「……だ、そうだが」
犯罪者のように視線を浴びせられている陸。
陸 「(俺はなんで責められているんだ……こんな理不尽な話があってたまるもんか。 昨日、
はただ必死で黒魔術の研究をしていただけなんだ。 カンチョーもしてないし、ランドセルの鍵も開けていない。 走りながらぶつかった事もなければ、後ろから蹴り飛ばす事なんてある訳ない。 責められる理由なんて一つもないんだ。 そうさ第一、俺はもう大人だ。 こんな小学生、相手にどうして頭を下げなけりゃいけない。 謝ってたまるもんか……謝って……)」
静かな空気の教室。
みんな陸の返事を待っている様子。
陸に冷たい視線が突き刺さる。
それを感じながら頭をかきむしる陸。
肩を撫で下ろしふーっと溜め息をつく。
教室に響くような大きな声で、
陸 「ごめんなさいっ!」
陸(語り)「小学生らしくごめんなさいの『い』の部分を嫌味ったらしく発音する事、それがこの世界でのささやかな抵抗だった」
サブタイトル 『第2話 お前は一体、誰なんだよ』
〇3F 廊下
静かな廊下。
窓の向こうには中学校のグラウンドが見える。
手洗い場からポタポタと水がつたう音。
(水を大切に)
と書いている文字と手の洗い方の張り紙が張ってある。
天井からぶら下がるようについている時計。
針は16時20分を指している。
教室から聞こえてくる声。
生徒 「先生さようなら、みなさんさようなら!」
がらっと扉が開いて生徒達が勢いよく飛び出してくる。
男子生徒 「一番、最後はウンコマーン!」
わーっと騒ぎながら男子生徒達が走り抜けていく。
(廊下は走らない)
と書かれたポスターがはがれそうになっている。
生徒が走っていく風圧でひらひらと揺れている。
途中で女子生徒とぶつかりそうになる男子生徒。
女子生徒 「ちょっと、危ないじゃないのよ!」
怒っている女子生徒。
そのまま走って、後ろを振り返りながら、
男子生徒 「うっせーブース!」
けらけら笑いながら階段の手すりにまたがり勢いよく下に滑り降りていく。
少し遅れて教室から出てくる陸。
陸 「(ふーやっと終わった)」
とぼとぼと廊下を歩く陸。
次々と違う教室から生徒が出てきて廊下が騒がしくなる。
陸 「(しかし、何なんだ。 この周りのテンションの高さは。 まるでついていけん……小学生とはこんなにも自由なのか。 どうせすぐに慣れて他の生徒と同じような感覚でいれるかもしれないと思っていたのは実に安易な考えだ。 とりあえず花梨が転校するあの日まで……それまで俺は周りに怪しまれないよう必死で小学校五年生を演じきるしかないな……)」
生徒達の間をすり抜けて教室を後にする陸。
角にあるトイレを右折して階段に向かう。
ランドセルとランドセルがぶつかりそうになる。
耳に入ってくる生徒の声。
生徒A 「なあ、頼む一生のお願い! ブルーアイズ交換してくれってー」
作品名:20日間のシンデレラ 第2話 お前は一体、誰なんだよ 作家名:雛森 奏