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A(けんしょう炎)
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novelistID. 8805
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双子の月と影の少女

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 ラサは思わずにじんでしまった目をゴシゴシこすり、フィルも信じられないという様子で何度も星に刻まれた言葉を読み直していました。
 双子の月は、次に地上に降りる日を待ち望むあまり、ぐるぐると空中を飛び回ったり、大きな声で歌ったりしました。地上にもその声は優しい月の光となって届くのでした。

 しばらくぶりに地上に降り立ったフィルが後ろから少女を脅かすまで、少女は声も上げずに泣いていました。フィルは一瞬迷いましたが、寒さで少し冷たくなってしまった手で、少女の両頬を包み込みます。
「きゃあ!」
 少女は驚きのあまり、飛び上がりました。それを支えるように、フィルはぎゅっと、影に居すぎたせいで酷く冷えてしまった少女を抱きしめます。
「帰ってきてくれたの!?」
 すぐに少女は体を捻り、フィルを見ます。穏やかな銀の瞳が、慈しみの光を宿して少女を見下ろしていました。あんまりにも寂しかったのと、会えた喜びとで、少女はまたぽろぽろ涙をこぼしてしまいました。
「空の王さまが、許してくれたんだ。女の子一人を泣かせているようじゃ、地上の皆を幸せになんかできないだろうって」
「ねえ、二人とも会えるんだよね。前みたいに、代わりばんこに、会いに来てくれるんだよね」
「そうだよ、君に会いに来るよ。前みたいに、毎日ね。約束するよ。だから泣いちゃだめだよ、王さまの言いつけを早速守れなくなっちゃうじゃないか」
 困ったように笑って、フィルは少女の目元をぬぐってやりましたが、涙は後から後から溢れてくるようで、少女も困って何度もゴシゴシ目をこすります。
「ほら、一緒に、金の月に教えてあげよう。もう泣いてないよって」
 フィルに手を引かれ、少女は久しぶりに月光の元に、外に立ちました。金色の月が、これまでに無いぐらい優しい光を放っているようでした。
「ちゃんと聞いてるよ、僕も、金の月も」
「うん……えっと」
 涙のせいで濁った声になってしまった少女は、一度深呼吸をしてから、言葉の代わりに、歌い始めました。吟遊詩人が残していった曲、何時からか歌えるようになっていた曲、双子の月と遊んでいた時に教えてもらった曲。覚えている全ての歌を、夜空全部に届くようにと、少女は歌い始めました。


 ――やがて影の少女は偉業をなし、影の女王となりましたが、これは別の話。双子の月は、女王となった少女の傍に立ち、少女が地上での命を燃やし尽くすまで彼女の良き友であり続けました。
 そうして少女の命が燃え尽き、魂が死の国へと旅立っても、少女が寂しくならないようにと、ひかりのとりが鳴き声をあげる度に、交代で少女の元へと向かうのでした。

 そんな訳で、双子の月は、今も一年ごとに交代で夜空へ昇るのです。