小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

舞うが如く 最終章 3~4

INDEX|1ページ/6ページ|

次のページ
 
舞うが如く 最終章
(3)浅田タケ

 「はて・・・」

 兄の道場を訪ねたその帰り道の琴が、
すれ違っていく乳飲み子を背負った婦人を見送ってから、ふと、小首をかしげました。


 兄の道場では、先ほどまで新しい師範の誕生を祝ってささやかな酒宴が催されていました。
昼間の酒に少し酔い、ほてりも覚えた琴が酔い覚ましもかねて川沿いの道を歩いています。
いつもの街道からは少し外れて、渡良瀬川の渓谷沿いにある小路まで
ふらりと下ってきたときのことでした。


 このあたりでは、見かけない顔の婦人でした。
整った身なりと言い、その雰囲気と言い、どこかとなく都会を感じさせました。
しかしその足取りの様子は余りにもゆっくりです。
どこかを訪ねていくという気配などは、ほとんど感じさせません。
まさかと思い、琴がなお数歩すすんだ処で立ち止まりました。
振り向くと丸太の橋を渡って、対岸に移ろうとしている先ほどの婦人の姿が見えました。


 確信をした琴が、踵(きびす)をかえします。
乳飲み子を背負った婦人は、足元を行く水の流れのあまりもの速さに
気おくれを覚えたまま、じっと立ちつくしていました。


 「賢明です。
 雨上がりの、この水は、
 見た目以上に、はるかに勢いをもっておりまする。
 見れば、どこかを訪ねる様子ですが、
 この丸太橋の先には、ひとつの人家もありませぬ。」



 婦人が、はっと気づいて振りかえります。
まだ若く、20歳そこそこという面立ちでした。
あどけなさが残ったまま、細面の白い顔にひかれた紅(べに)が、
燃えるような真紅です。


 「道に迷われたようです。
 間もなく、陽の暮れる時刻となるゆえ、
 山道は、あっという間に真っ暗になりまする。
 わが家に戻る途中なれば、ついてまいるがよい。
 見れば・・・背中の赤子も、
 お腹を空かせた様子にありまする。」