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覇剣~裏柳生の太刀~第二章

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二日前に早乙女強の火葬が柳生家と千葉家で行われた。
三日後には葬儀が行われ、会場は柳生家で行われることに決まった。
柳生家は千代田区にあり皇居の近くに広い土地と道場を持っていた。
柳生家自身の持ち物ではない。
国の物である。
そこは日本政府が国民の文化と教育の一環として、日本が世界に最も誇れるコンテンツとして、日本古来の武士道精神が選ばれ、また保存育成の場と称し、建設されたものであり、建設されて12年が経つ。
建設されたのが、ちょうど北京オリンピックの年でもあった。
深夜である、深夜の道場、新影柳生流剣術を学ぶ道場である。
深夜ともなると車の音が微かに聞こえる程度で、静かなところと都心部はなっていた。道場内、電気は付けていない。
月明かりが頼りの薄暗い場所で、男は真剣を振るっていた。
振るう、と言うより、まるで見えない闇のカーテンを切り裂くような振りのようだった。太刀から香りが立ち込めてくる。
太刀の振りに僅かな光源が反射し、まるで稲妻が男の周りで発生しているようにも見える。
真剣、太刀が空気を裂き、新しい空間が出てくるような、そんな錯覚を覚えるような恐ろしい速度で太刀は男の腕によって、腰によって、身体の延長となって振るわれた。
妖しい太刀である、不吉な太刀である、忌み嫌われた太刀である。
だからか、そう男は思う。
妖刀「村正」である。
操るのは剣剣士。
眠れない、眠れないからここで太刀を振るう。秩父と変わらない、いつもと変わらない、いつも眠れぬときは、その太刀で闇を貫いた。草木を削いだ。
剣士は昨日のことを思い出す。
「これは引き取れませんね」
東京国立博物館の館長がそう言って断ったことである。
「迷信って訳ではないんですが、以前、村正を引き取った博物館に災いがありましてね、いえね、他の太刀がみんな曇るんですわ、刃先がね、手入れしても手入れしても、で、まさかとはと思ったんですが、村正を近くの神社に預けたら、他の太刀はまた元通りに戻ったそうです」
光と剣士は東京国立博物館を後にした。
「柳生家にも置いてはいけないそうなんだ、迷信だけど、柳生は代々、太刀は『正宗』で、どうも、相性が悪いみたいなんだよね」
光はそう話して車を走らせた。
「どうしたらいいんだろう」
剣士はトランクに入れてある村正の今後を光るに聞いた。
「多分、こうなることは分かってはいたんだけど、あそこの館長なら話が分かるかな、と思ってさ、来たんだけどね。大丈夫、さっきも館長が言っていたけど、村正は神社に預けるのが一番なんだろうな」
「近くの神社に心当たりはあるの?」
「ここら辺には無いよ、宮城県だろうな」
「宮城県?」
「そう、国網って太刀があるんだ、これもかなり訳ありな太刀で、鬼丸とも呼ばれている。それも、ま、今日みたいな村正のような扱いでさ、色々預けるところを探して、鬼伝説の山がある宮城に塩釜神社があってさ、そこに国網が安置してあるんだ、だから明日にでもそこに連絡してみるよ」
光はそう自分に話してくれた。
昨日のことだ、この太刀も厄介だが、この自分もなんとなく厄介に感じた。
厄介者がここにいる、
剣士は自問自答する。
どうすれば良いのか?漠然とした不安がある。今までは龍剣がいた、龍剣がいたから好きな剣の道を歩んでいられた。
本当に?本当に好きなのか、剣の道が。
いや、剣の道など本当は好きではなかったのではないか。
ただ、龍剣に言われるままに鍛錬してきただけではないのか?
あれは修行ではない、自分はただ龍剣の死合いを見ていた。
幾つかの他流試合を見てきたに過ぎない。
幼い子供が、真剣勝負の試合をみる。
試合?やめてくれ、ただの人殺しだ、効率よく殺す人殺しだ。
指が切断される、腕が切断される、足が切断される、腹が斬られる、血が出る、一拍置いて血が出る、内臓がでる、医師が居るときは止めに入る、馬鹿馬鹿しい、止めに入るだって!最初からやらなければいいのだ、やらなければ医者などいらない。
剣士は試合を、龍剣の試合を三歳の頃から見せられて育った。
異常である、己の生き様が、異常である、己の環境が、異常である、剣の道が、異常である・・・・
道場の入り口に気配を感じた、剣士をじっと見ている気配を感じた。
気がお互いを察したとき道場に電気が灯された。
「眠れませんか」
光の声である。
穏やかな喋りだが、声質は心なしか硬く感じる。
「ええ、なんか不安で、眠れません」
剣士は近くに置いてあった鞘を拾うと真剣をしまう。
「いいものを見せてもらいました。聞きしに優るとはこのこと」
光はそう言って中に入ってきた。
「いいものかどうか分かりませんが、もうこれは必要ないものですから」
剣士はそう光に言って村正を持ち上げた。
「剣の道を究めるんでしょう?」
当然のように光は剣士に問う。
「分かりません、実は、辞めようかと迷っています」
「辞めようかと、迷っている?」
「ええ、元々、龍剣の望んでいた人生のようでしたから」
剣士はそう言って光の反応をみる。
「剣道は好きじゃないんですか?」
「自分独りになり、分からなくなってしまいました」
「龍剣を倒したからですか?」
光はそう言うと剣士とは一定の距離を置いて立ち止まった。
「倒す?倒す!」
剣士は考え込む。
倒す、自分が誰かを倒す、そう、そう望んだことなど今まで無かったのではと、改めて思い出す。
ならば問う、なぜ、あれは起こったのか?あれはとは、アレである。
秩父の山奥でのアレだ。
試合ってやつだ。
自分の嫌いな試合ってやつで、結果的に剣士が龍剣を倒した、例のアレである。
「なんか余計なことを言ってしまいましたね、
失礼しました、デリケートな精神状態のときに、すいません」
光はまた、いつもの声質に戻ってそう侘びを伝えた。
「そうだ、剣士さん、立切誓願試合をしませんか?」
光はそう言うと道場奥にある太刀置き台から正宗を持ってきた。奥州正宗である。
「どのような稽古ですか?」
剣士は立切誓願試合を知らない。
「ま、真剣を使っての演舞寸止めみたいなものです。見切りの会得が主体ですが」
剣道の稽古では危険な上級者の稽古でもある。光も何度か祖父、清十郎と行い、真剣の恐ろしさと緊張感を、立切をもって教えられた。
「教えてください、その立切とやらを」
二人は互いに正座し礼を深々と行う。
そして太刀を持って立ち上がった。


つづく