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舞うが如く 最終章 1~2

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 咲と琴による、一軒家での生活が始まりました。


 まもなく咲が、法神流に入門をします。
まゆを煮るのが仕事の咲は、朝の4時には起床をします。
工場での仕事が一段落をすると、いったん自宅に戻り、朝食をとったあと、
身支度を整えて渡良瀬川の渓谷に沿って、走るようになりました。



 「糸取りの一等工女たるあなたが、
 二等工女の仕事ともいえる、煮繭の仕事をしていたのでは、、
 世に言う、宝の持ち腐れではありませぬか?」


 琴の問いかけに、咲が真顔で答えます。



 「おそれながら、琴さまのほうが、はるかに持ち腐れにあるようです。
 咲の持ち腐れは、たったのひとつにありまするが、
 琴さまには、人さまが言うには、ふたつもあるようにございます。」


 「わたしには、・・・ふたつもあるのですか?。」



 琴が、目をまるめます。


 「はい、
 男衆が言うには、はや四十路(よそじ)であろうに、
 相も変わらぬ美しさを保ちながらに、
 いまだに一人身を通したままで嫁がぬというのは、いかがに有ろうと、
 皆さまそれぞれに、たいへんご不審にございまする。」



 「うむ、なるほど。で、もうひとつは?」


 「他ならぬ、剣術の腕前そのものにございまする。
 天下において右に出るものはおらぬというほど、とりわけ
 小太刀と薙刀においては、人も及ばぬ名手との評判にございます。
 兄の良之助様が、常々にお嘆きにございます。
 せっかくの腕前も磨いておかないことには、いつかは錆びて朽ちてしまうであろう。
 もう少々だけでも、稽古に励むようにと、
 お小言と、ことずけが、咲に託されておりまする。」



 「兄上が、そのようなことを・・・・」


 「一つお尋ねをいたしたいと思いまする。
 遠慮なく、お聞きしてもかまわぬでしょうか。」



 「改まって何ですか?
 遠慮はいりませぬ、何なりとお答えをいたしますので、聞くがよい。」



 「失礼を申しまするが、気を悪くなさらないでくださいまし。
 琴様が男衆のもとに嫁がぬというのは、いかなる理由によるものでございまするか。
 もしや・・・もともとが男衆をお嫌いか、
 さもなければ、男は受け入れぬ身体ではないかなどと、
 世間の男たちが無遠慮に詮議をいたしておりまする」


 「なるほど、先には私が、どのように見える」


 「失礼ながら、いまでも充分に女盛りと思われます。
 紅、白粉などを用いずともお美しいのは、咲も周りも認めておりまする。
 ゆえに、男衆になびかぬのは、咲には少々不思議です」




 「案ずることは無い、私も生身の女です。
 若き頃には、この胸を焦がして人並みに恋もいたしました。
 たったの一人だけですが、狂おしいほどにお慕いをいたした殿方もおりました。
 とうの昔の話です。
 また、心の底から慕ってくれた殿方もこれまた、お一人だけおりました。
 が、・・・まことに残念なことながら、
 もうお二人がともに、この世にはおられませぬ。
 今思うに、ともに、良き男衆に有りました。
 また、ともに、よき器量の持ち主でもあられました。」



 「まぁ、そのような出来事がおありとは!、
 琴様、それなるは、一体どのような殿方にあらせられますか!。」


 咲がひときわ、目を輝かせました。
其れを見た琴が、するりと話題をかわします。



 「はて、遠い昔ゆえ、すでにもう、すっかりと忘れておりました。
 はるかに遠い過去の出来ごとゆえ、記憶も定かにありませぬ・・・・
 それよりも、最近の咲さんのほうにこそ、色気にあふれている噂がございます。
 工女たちが口々に言うのには、なんでも馬方には良い男が沢山いるそうな。
 いかがにございまする?
 石炭運びの男衆にも、なかなかの男前ぶりの青年がおると評判です。
 咲も好みとするお人が居るとか居ないとか、近頃の風の噂で聞きました。
 真偽のほどは、いかようですか」



 「知りませぬ・・・」

 
 咲が、頬を真っ赤に染めて、
いやいやをしたままに、急にうつむいてしまいました。


(3)へつづく