アンデッド☆ナイト
――アンデッド。死にぞこないを意味し、ウォーキングデッドやリビングデッドなどとも言われる。主にゾンビやスケルトンなど死後の存在として描写される。
転じて、サバイバルゲームなどで死体のフリをするプレイングをアンデッドと呼称する。
さて、今夜はそのアンデッドに付いてお話しようかと思う。この時点で既にオチが読めてしまっているだろうが、最後まで主人公の心の声に耳を傾けてやってほしい。
主人公の名前は……書き示さなくてもいいだろう。彼に名前など必要ない。何故なら、この話では終始一貫して、名前などただの付属品でしかないためだ。
この物語は、ある世界のある夜、アンデッドとして戦場に赴いた男が体験した、悲劇である。
ある国のある激戦区。市街地であったこの辺には、最早民間人の姿は見えない。あるのは死体と、そして銃を撃ち合う兵士だけだ。
オレはその死体どもに混じって、敵兵を奇襲する作戦に行っている。
この辺りは敵兵の侵攻区。多くの敵兵が着々と侵攻を進めている中で、我らリビングデッド隊は死体のフリをして敵兵を襲うというゲリラ作戦を行っていた。
「隊長、ここにも死体があります」
どうやら、獲物が来たようだ。
なるほど、少年兵の類か。全員子供のようだが、どうやら敵さんも大概人手不足らしい。
「ふむ、どうやら本当に死んでいるみたいだな」
どうだ、このオレの死体っぷりは。普通の人間にはまず見破られない死体っぷりだ。
こいつらが油断をした辺りで、指向性爆弾を破裂させる。こいつらが怯んだところを、ハンドマシンガンで一掃してやる。
「隊長、指向性爆弾を発見いたしました」
え、何で見つけてんの? なんでいきなりこっちの作戦を潰してくれんの?
「死体に仕掛けるなんて、えげつないことをしてくれる。一体味方をなんだと思っている」
うっわぁ、すげぇいい兵士だよ。すっげぇ清く正しい兵士だよ。こんな兵士初めて会ったよ。
「かわいそうに、味方に捨て置かれ、爆弾まで……」
何でここまで同情してくれんの? 敵兵だよ? 良い敵は死んだ敵だけだと言うべきだぞ。
……よく考えたら、自分、今死んでた。そうだよね、そういう理論なら同情されても仕方ないよねっ!
「捨て置きますか、隊長」
「埋めてやろう。このままここに寝かせておくのはあまりに忍びない……」
え、こいつ、今なんて言ったの?
「銃を持ち、勇敢に戦った英雄だ。敵兵とはいえ、英雄には最大限の弔いをしてやるのが兵士たちの勤めだ」
しかも凄く良い奴だよっ! 何敵兵まで埋葬してやろうとしてんのっ? 戦闘中だよっ? 戦闘中にこんなことする奴がいるなんて思いも寄らなかったよっ!
やばい、このままじゃ埋められる。因みに人間は、生き埋めに耐えられるようにはできていないという。ほとんどの場合、埋められたら圧死してしまうとか何とか。
ここは、一気に銃で掃射して方をつけよう。
「隊長、アンデッドだった場合どうするつもりだったのですか?」
「無論、酷い目に合わす」
酷い目ってどういうことっ!? うわっ、後ろの子震えてるよっ! そんなに怖いのっ!?
「シャロン隊長の酷いことは……惨いことなのです……」
「アレのあと、狂ってしまった奴も、大勢いると聞きます……」
ドンだけ酷いことしてんだよっ! あとお前女だったのかよっ! 女隊長って何気に凄いぞおいっ!
「アレを切り落とされた奴もいるとか」
ひぃっ! なんてことをしやがるっ!
やばい、これは早いところをどうにかしなければ、生き埋めかパイプカットの二択しかない。
「因みに、隊長はアンデッドハンターシャロンと言われたらしい」
なんだよそれっ! ちょっとかっこいいじゃないかよっ!
これはあれか、敵兵を埋葬しているうちに大量のアンデッド野郎を狩ることになったということか。
ヤバイ、死ぬっ! それかパイプカット。悪い未来しか見えないっ! ざっくざっくという砂の音まで聞こえてきたっ! あ、銃取られた。どんどん選択肢が消えていっちゃうぅぅぅぅっ!
「ふむ、貴様のドッグタグ、確かに貰い受けた。いい名前だな。……英雄に、敬礼っ!」
あ、ダメ、重いっ! 息が、でき、ない……。