20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある
メインタイトル 『20日間のシンデレラ』
〇教室(回想)
黒板に大きく描かれた文字。〈さようなら 池田花梨さん〉
光が差し込み教室がオレンジ色に染まっている。
うっすらと遠くで聞こえる蝉の声。
ゆっくりと教壇の上に立ち、生徒を見つめている教師(イダセン)。
深刻な表情の生徒。
少し重たい空気が教室内に流れている。
イダセン 「え―みんなも知っての通り今日で池田とはお別れだ。 来月からは県外の学校に通う事が決定している。 なかなか会う機会も少なくなって寂しくなるとは思うが……」
陸 「寂しくなんかね―よ」
イダセンの話を割って、ぶっきらぼうな態度でつぶやく陸。
視線を窓の外に向けている。
花梨が少し悲しげな表情で、隣の席の陸を見ている。
イダセン、声を荒げて、
イダセン 「出雲、冗談でもそんな事言うもんじゃない!」
しばらく教室内に沈黙が続く。
コホンと一度咳払いをする教師。
イダセン 「じゃあ最後に池田からみんなに挨拶をしてもらおう、池田」
花 梨 「はい」
よく通る声が教室に響く。
席を立ち上がり、上靴の音を鳴らしながら壇上に向かう花梨。
短めの髪がふわりと揺れる。
自分の横を通り過ぎる花梨を横目でちらりと見る陸。
何かよからぬことを思いついたような表情。
口元をにやりとさせ、机に突っ伏す。
イダセンに会釈をして教壇に上る花梨。
姿勢を正してクラスメイトの顔を眺める。
花 梨 「…………」
机に突っ伏している陸が視界に入る。
表情が少し曇り、話し始めるタイミングを逃してしまった花梨。
清 水 「おい、もしかして陸泣いてんじゃねーの?」
米 川 「んな訳ね―だろ、陸だぞ。 どうせ泣いているふりして驚かせようとしてるんだよ」
ひそひそと生徒が話し始め、自然と陸の方に視線が集まる。
イダセン 「おい、静かにしろ」
イダセンが目で合図を送り、コクリと頷く花梨。
少し前に一歩出て。
花 梨 「私はこの五年四組が大好きです。 ほんっとうに毎日が楽しくて、気がついたらあっという間に一日が終わってるような、そんなクラスでした。 飯田先生は俺をいたずらで騙せたら、宿題をなしにしてやるぞーとか言って全然先生っぽくないし」
真剣な表情から笑みがこぼれて、柔らかい印象になっているイダセン。
花 梨 「恵子はいつも怪しい黒魔術の本を読んでるし、前田は給食の時間になるとおかわりする為に人が変
わったように早く食べるし、あと米川の机の奥からカビ付きのパンが出てきたり、夏美が水槽を落として割っちゃったり」
教室にどっと笑いが起きる。
次第に生徒の表情が明るくなっていく。
花 梨 「そして……」
一瞬、陸の方を見る。
瞳を潤ませてまた視線を戻す。
花 梨 「あと一年で卒業なのに急に転校する事になっちゃってすごく残念だけど、私にとってこの五年四組で
過ごした思い出は一生の宝物です。 みんな…本当にありがとう」
涙声になりながらぺこりと一礼をする花梨。
拍手が教室に鳴り響く。
泣いている女子も何人かいる。
イダセン 「よし、みんなからも池田にお礼を言おう。 全員起立!」
椅子が一斉に引かれて、床とこすれる音。
陸以外の全員が起立をする。
机に突っ伏したままの陸。
イダセン 「ん? おい出雲」
生徒が陸の方を見る。
清 水 「おい陸、池田に挨拶するぞ。 ほら立てって」
後ろを振り返り、陸に声をかける清水。
全く反応がない。
よく見ると体がぷるぷると震えている。
清 水 「お前……」
教室がざわざわとし始める。
周りの生徒が心配して次々に声をかける。
びっくりした様子で教壇から見ている花梨。
その体勢のまま、聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で。
陸 「うるせぇ……」
生徒たちが陸の元にかけよってくる。
陸にピントが当てられ、他の生徒たちがぼやけて見える。
時間が止まったように陸以外の生徒の動きが止まる。
実際よりもはるかに多く、陸を呼ぶ声。
エコーがかかった様な声で次第に大きくなっていく。
陸 「うるせぇ……うるせぇ……」
ぼそぼそと繰り返す陸。
さらに声は大きくなる。
震えている陸の体。
急に机をばんっと叩き立ち上がる。
教室内、沈黙。
涙でくしゃくしゃの顔。
両手で耳を塞ぎながら。
陸 「うるせぇーーお前なんかとっとと転校しやがれ!」
大きな声が響く。
〇一人暮らしの陸の家 寝室(2010年 現在)
急にベッドから起き上がる陸。
汗をびっしょりとかいて、息が乱れている。
カーテンから漏れている光。
雀の鳴き声が聞こえる。
おもむろに手を伸ばし、近くにあるケータイを手にとる。
しばらく画面を凝視する。
再びベッドに勢いよく仰向けになり、無造作にケータイを近くに置く。
天井を眺めている陸。
ケータイの画面が光ったままに。
〈メール受信BOX 清水良平 明日は約束の日、覚えてるよな?〉
× × ×
陸 「タイムカプセル……か」
サブタイトル 『第1話 やり直したい過去がある』
〇電車内(翌日)
電車が揺れる音。
(本日はご乗車頂きありがとうございます……)
車内アナウンスが聞こえる。
遠足に向かうであろう小学生がリュックサックを背負って、楽しそうにはしゃいでいる。
端の座席に座り、その光景を遠めに見ている陸。
手すりに肘をつきながら、ぼーっとした表情で、
陸(語り)「心のもやがとれずにいる。あの時こうすればよかった、あんな事をしなければよかった。 思い通りに
いかなくて後悔というものとして残った時、それはじわじわと自分自身を蝕んでいってるような気がしてならない」
〇改札
切符を入れて改札を通る陸。
駅の出口に向かう。
〇小学校 校門前
足早に歩いていく陸。
遠くに校門が見える。
ざわざわと話し声が聞こえて人だかりができている。
こちらに気づき静かになると、誰かが勢いよく走ってくる。
ある程度の距離になって清水だと認識する陸。
清 水 「陸ーーーー」
暑苦しい顔が次第に近くなり、抱擁を求めるように手を広げている清水。
陸を抱きしめようとする清水。
しかし空をきる。
冷静に清水の抱擁をかわす陸。
あっけに取られ目を丸くしている清水。
清水を指差してげらげらと笑う陸。
清 水 「このやろー陸、久しぶりじゃねーか」
陸 「おう」
お互い手を軽く握りコツンと当てる。
〇教室(回想)
黒板に大きく描かれた文字。〈さようなら 池田花梨さん〉
光が差し込み教室がオレンジ色に染まっている。
うっすらと遠くで聞こえる蝉の声。
ゆっくりと教壇の上に立ち、生徒を見つめている教師(イダセン)。
深刻な表情の生徒。
少し重たい空気が教室内に流れている。
イダセン 「え―みんなも知っての通り今日で池田とはお別れだ。 来月からは県外の学校に通う事が決定している。 なかなか会う機会も少なくなって寂しくなるとは思うが……」
陸 「寂しくなんかね―よ」
イダセンの話を割って、ぶっきらぼうな態度でつぶやく陸。
視線を窓の外に向けている。
花梨が少し悲しげな表情で、隣の席の陸を見ている。
イダセン、声を荒げて、
イダセン 「出雲、冗談でもそんな事言うもんじゃない!」
しばらく教室内に沈黙が続く。
コホンと一度咳払いをする教師。
イダセン 「じゃあ最後に池田からみんなに挨拶をしてもらおう、池田」
花 梨 「はい」
よく通る声が教室に響く。
席を立ち上がり、上靴の音を鳴らしながら壇上に向かう花梨。
短めの髪がふわりと揺れる。
自分の横を通り過ぎる花梨を横目でちらりと見る陸。
何かよからぬことを思いついたような表情。
口元をにやりとさせ、机に突っ伏す。
イダセンに会釈をして教壇に上る花梨。
姿勢を正してクラスメイトの顔を眺める。
花 梨 「…………」
机に突っ伏している陸が視界に入る。
表情が少し曇り、話し始めるタイミングを逃してしまった花梨。
清 水 「おい、もしかして陸泣いてんじゃねーの?」
米 川 「んな訳ね―だろ、陸だぞ。 どうせ泣いているふりして驚かせようとしてるんだよ」
ひそひそと生徒が話し始め、自然と陸の方に視線が集まる。
イダセン 「おい、静かにしろ」
イダセンが目で合図を送り、コクリと頷く花梨。
少し前に一歩出て。
花 梨 「私はこの五年四組が大好きです。 ほんっとうに毎日が楽しくて、気がついたらあっという間に一日が終わってるような、そんなクラスでした。 飯田先生は俺をいたずらで騙せたら、宿題をなしにしてやるぞーとか言って全然先生っぽくないし」
真剣な表情から笑みがこぼれて、柔らかい印象になっているイダセン。
花 梨 「恵子はいつも怪しい黒魔術の本を読んでるし、前田は給食の時間になるとおかわりする為に人が変
わったように早く食べるし、あと米川の机の奥からカビ付きのパンが出てきたり、夏美が水槽を落として割っちゃったり」
教室にどっと笑いが起きる。
次第に生徒の表情が明るくなっていく。
花 梨 「そして……」
一瞬、陸の方を見る。
瞳を潤ませてまた視線を戻す。
花 梨 「あと一年で卒業なのに急に転校する事になっちゃってすごく残念だけど、私にとってこの五年四組で
過ごした思い出は一生の宝物です。 みんな…本当にありがとう」
涙声になりながらぺこりと一礼をする花梨。
拍手が教室に鳴り響く。
泣いている女子も何人かいる。
イダセン 「よし、みんなからも池田にお礼を言おう。 全員起立!」
椅子が一斉に引かれて、床とこすれる音。
陸以外の全員が起立をする。
机に突っ伏したままの陸。
イダセン 「ん? おい出雲」
生徒が陸の方を見る。
清 水 「おい陸、池田に挨拶するぞ。 ほら立てって」
後ろを振り返り、陸に声をかける清水。
全く反応がない。
よく見ると体がぷるぷると震えている。
清 水 「お前……」
教室がざわざわとし始める。
周りの生徒が心配して次々に声をかける。
びっくりした様子で教壇から見ている花梨。
その体勢のまま、聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で。
陸 「うるせぇ……」
生徒たちが陸の元にかけよってくる。
陸にピントが当てられ、他の生徒たちがぼやけて見える。
時間が止まったように陸以外の生徒の動きが止まる。
実際よりもはるかに多く、陸を呼ぶ声。
エコーがかかった様な声で次第に大きくなっていく。
陸 「うるせぇ……うるせぇ……」
ぼそぼそと繰り返す陸。
さらに声は大きくなる。
震えている陸の体。
急に机をばんっと叩き立ち上がる。
教室内、沈黙。
涙でくしゃくしゃの顔。
両手で耳を塞ぎながら。
陸 「うるせぇーーお前なんかとっとと転校しやがれ!」
大きな声が響く。
〇一人暮らしの陸の家 寝室(2010年 現在)
急にベッドから起き上がる陸。
汗をびっしょりとかいて、息が乱れている。
カーテンから漏れている光。
雀の鳴き声が聞こえる。
おもむろに手を伸ばし、近くにあるケータイを手にとる。
しばらく画面を凝視する。
再びベッドに勢いよく仰向けになり、無造作にケータイを近くに置く。
天井を眺めている陸。
ケータイの画面が光ったままに。
〈メール受信BOX 清水良平 明日は約束の日、覚えてるよな?〉
× × ×
陸 「タイムカプセル……か」
サブタイトル 『第1話 やり直したい過去がある』
〇電車内(翌日)
電車が揺れる音。
(本日はご乗車頂きありがとうございます……)
車内アナウンスが聞こえる。
遠足に向かうであろう小学生がリュックサックを背負って、楽しそうにはしゃいでいる。
端の座席に座り、その光景を遠めに見ている陸。
手すりに肘をつきながら、ぼーっとした表情で、
陸(語り)「心のもやがとれずにいる。あの時こうすればよかった、あんな事をしなければよかった。 思い通りに
いかなくて後悔というものとして残った時、それはじわじわと自分自身を蝕んでいってるような気がしてならない」
〇改札
切符を入れて改札を通る陸。
駅の出口に向かう。
〇小学校 校門前
足早に歩いていく陸。
遠くに校門が見える。
ざわざわと話し声が聞こえて人だかりができている。
こちらに気づき静かになると、誰かが勢いよく走ってくる。
ある程度の距離になって清水だと認識する陸。
清 水 「陸ーーーー」
暑苦しい顔が次第に近くなり、抱擁を求めるように手を広げている清水。
陸を抱きしめようとする清水。
しかし空をきる。
冷静に清水の抱擁をかわす陸。
あっけに取られ目を丸くしている清水。
清水を指差してげらげらと笑う陸。
清 水 「このやろー陸、久しぶりじゃねーか」
陸 「おう」
お互い手を軽く握りコツンと当てる。
作品名:20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある 作家名:雛森 奏