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察人姫-第壱話-

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壱の参





「おい、電気つけていいか?」
「ダメ。暗いままがいい」
 真っ暗な空間。
 毛布にくるまった一組の男女。
 浅蔵祐市と佐伯空。
「つーかさ、明日小テストがあるんだけど……」
「一回くらい休んでも単位は大丈夫でしょ?」
「いや、奨学金狙ってるんだよ」
 向かい合い、互いに息がかかるほど密着した状態の二人はヒソヒソと囁き合うように言葉を交わす。
「そこ、誰かいるのか?」
 その時、突然光が二人を包み、警戒するような男の低い声が聞こえる。
 それは二人にとってつい最近聞いたばかりの声。
「仕事熱心ですね、藤村さん」
「お前らか……なんだよ、紛らわしいことすんな」
 眩しそうに目を細くして笑うユーイチに藤村は呆れ顔で近くの椅子に座る。
 背もたれのない、木製の椅子。辺りの大きな机には何かの器具が付いている。
「で、どうやって忍び込んだよ?」
「もちろん鍵を開けて」
「鍵って……ああ、お前らは知ってるんだったな。技術室の裏口を」
「はい、全く変わってないですよね」
 技術室の裏口。
 それが今回ユーイチとソラが侵入した部屋。
 ここの入口は他の部屋と同様、しっかりと施錠されてはいるのだが、基本的にトラックなどで閉鎖されている裏口には鍵は付けられていない。いや、鍵はあったが壊れてしまっている。しかし、技術室の工具は基本的に倉庫にあり、施錠されてるため学園側も盗られるものなどないと考え、ずっと放置されていた。
 それに気づき、夜中学園に侵入しては遊んでいたのがユーイチとソラだった。
「おい、佐伯も出てこいよ。わかってんだからよ」
「いや、あの……藤村さん」
「うん?」
 毛布にくるまったままのソラに藤村はそう言うが、全く反応がない。
 そしてそんなソラの様子に気づき、ユーイチは苦笑いを浮かべて藤村に答える。
「まさかのおねむです、藤村さん」



作品名:察人姫-第壱話- 作家名:朝朽 司